この曲は、おとぎ話?それとも実話?
ある説によると、両想いになる確率は、400分の1と言われています。
パーセントに変換すると、0.0025%。
この奇跡のような確率から察するに、両想いからはじまる恋愛はどれほど稀有なものかと驚かされます。
たいていの恋愛は、どちらか片方が先に恋に落ち、何かしらのアプローチで距離を縮め、相手にも好意を抱いてもらうもの。
しかし、今回ご紹介するTaylor Swift(テイラー・スウィフト)の「Snow On The Beach(スノウ・オン・ザ・ビーチ)」で描かれる恋愛は、たいていの恋愛に収まるものではありません。
0.0025%の奇跡が起きます。
お互いが同時に恋に落ちる奇跡のことを、「Snow On The Beach」ということばで表現されているのです。
「Snow On The Beach」の意味は、浜辺の雪。
浜辺には、一般的に潮風の影響で雪が積もらないとされていますが、この曲では浜辺に雪がしんしんと積もっていき、幻想的な情景で私たちを包んでくれます。
では具体的に「Snow On The Beach」の歌詞には、どんな思いが込められているのでしょうか?
この記事で、10thアルバム『Midnights』の「Snow On The Beach」の中身を考察していきます。
いろんな解釈ができるのが歌詞の魅力です。この記事の一考察をとおして、曲の魅力が伝われば幸いです。
【Verse 1】闇に差し込む一筋の光
ヴァース1は、「出会い」と「恋に落ちた瞬間」について描かれたパートです。
語り手が、苦しくても止めようのない時間にもがき、人生に打ちのめされている時に、光のような存在≪あなた≫と出会い、恋に落ちる様子が浮かんできます。
曲の冒頭は、“夜”から始まります。
もちろん、文字通りの意味に捉えても違和感はありませんが、テイラーにとっての暗黒期だった2016年のことを暗示しているとも解釈できます。
夜のように真っ暗な闇の中にいた時期に、眩しいぐらいの素敵な人と出会い恋に落ちてしまった様子が描かれています。
これが、このパートの大まかな内容ですが、細かく考察していて、引っかかる箇所が2つあります。
1つは、“フライト”です。
文字通りの意味として捉えるには、ストーリーの流れ的に唐突感があります。
「出会い」を描いた歌詞の流れを汲んで私なりに解釈するなら、“フライト”は「恋愛」のことを暗示しているのかもしれません。
ジョーと付き合う前の短命続きの恋愛遍歴のことを「(これまで恋の)フライトはひどかった」と捉えると、歌詞の流れ的には腑に落ちます。
もう1つの引っかかる箇所は、“unglued”です。
ungluedは主に2つの意味があります。
Collins Dictionary
- separated or detached; not glued
- See “come unglued”→to become emotionally upset and lose one’s composure
この辞書の2つの意味を確認したうえで、歌詞のストーリーや流れにどう意味を落とし込むかで解釈は異なります。
思い浮かぶ限り、3パターンの解釈ができます。
いずれの解釈であっても、≪あなた≫との出会いによって、人生がいい方向に向かおうとしている様子が伝わってきます。
【Chorus】≪あなた≫の気持ちやいかに
ヴァース1では、恋に落ちる様子が≪私≫視点で描かれており、≪あなた≫の気持ちは一切描かれていませんでした。
コーラスでは、≪あなた≫が≪私≫に対してどう思っているかが明かされます。
それは、曲名の「Snow On The Beach」ということばで描写されています。
ふつう、浜辺に雪は積もりません。
しかし、歌詞では、ありえないことに、雪はしんしんと降りはじめ、浜辺を一面の雪景色にしているのです。
同様に恋愛も、両者が同時に恋に落ちるようなことは、冒頭でも話したとおり、まれです。
片想いから始まる恋愛のほうが、圧倒的に多いはずです。
しかし、信じがたいことに≪あなた≫も≪私≫のことを同じくらい想っていて、恋に落ちていたのです。
その奇跡がこのコーラスで表現されてます。
おとぎ話のようなメロディーにのせて、幻想的でロマンチックで美しい歌詞が際立つパートです。
【Verse 2】隠しきれないのろけ
ヴァース1で恋をして、コーラスでお互いの気持ちを確かめ合った二人。
ヴァース2は、「両想いになった二人の交際期」を描いていると思われます。
たとえば、AL『evermore』収録の「willow」では、相手のことを“≪あなた≫はトロフィーやチャンピオンリングのよう”だと例えていますが、この曲では、優勝賞品である≪あなた≫を実際に手に入れて、ニヤニヤが止まらない様子が感じ取れます。
ほかにも、(ジョー・アルウィンが俳優であることもあってか)映画のワンシーンみたいだと感じたり、≪あなた≫のことを幻想的で美しいオーロラに例えたり、隠しきれないのろけが滲み出ているのがこのパートの特徴です。
【Bridge】デリケートな≪私≫と対照的な≪あなた≫
相思相愛を歌ったコーラスに挟まれたブリッジでは、「幸せに対する不安」を歌っているのではないかと解釈しています。
人はときに、幸せすぎると、失うことを恐れて不安になったり、自分にその幸せは相応しくないと拒否反応を示したりするものです。
恋愛の話に限ると、好きな相手と付き合うことになれば幸せなはずなのに、「その幸せが永遠に続いてほしい、維持したい」と思えば思うほど、「もしかしてこれから関係が悪化をするかも」とか「いつかは別れるかも」とか、いろんな不安が頭をよぎるのではないかと思います。
そんな幸せに対する不安や必死さが、このブリッジから伝わってきます。
たとえば、歌詞に“ジンクス”という言葉が登場します。
「願いごとを口にしたり誰かに言ったりしたら叶わなくなる」というジンクスは皆さんも聞いたことがあるかと思います。
そのジンクスを信じて、願いごとを口にしないどころか、望む勇気すらないと、幸せに対してどれほど弱気かが伝わってきます。
そんなデリケートな≪私≫とは裏腹に、≪あなた≫は不安を微塵も感じていない様子なのが、このパートの面白いところです。
不安で心配性な≪私≫と、全く物怖じしていない≪あなた≫。
そんな対象的な相手のことを、まるで別次元の別の生き物かのように、“≪あなた≫の眼は別の惑星の空飛ぶ円盤”だと表現しているところが、非常にユニークです。
なぜラナはバックコーラスに徹しているのか?
この曲は、両想いの奇跡を歌った曲だと前述しました。
奇跡といえば、今回の曲にはラナ・デル・レイ(Lana Del Rey)が参加しています。
しかし、いざ聴いてみるとラナの歌声は目立たず、バックコーラスに徹しています。
このことに、残念に思った人は少なからずいるようです。
しかし、歌詞のストーリーを理解すると、なぜラナがメインで歌っていないのか納得できます。
そこで、各パートのストーリーと誰が歌っているかをここにまとめておきます。
「まとめ」からも分かるとおり、付き合う前はテイラーだけで歌い、奇跡が起きてから以降はすべてバックコーラスにラナが入っています。
つまり、≪あなた≫との夢みたいな奇跡の恋愛を、ラナの歌声で表現しているのです。
その幻想的な演出に気付かずに、ラナの歌声がほとんど聴こえないことに対して、一部ファンやメディアに批判され、この曲は炎上しました。
「もっとラナの声を聴きたい」というファンの要望に応えて、テイラーは2023年5月26日リリースのニューバージョン『Midnights (The Til Dawn Edition)』に”more Lana Del Rey”バージョンを入れています。
このヴァージョンでは、ヴァース2にラナひとりで歌う部分があります。
しかし、このmore Lanaバージョンはあくまでファンの要望に応えたもので、最初のバージョンが正統なもの。
テイラー&ラナが表現したかったものだと思います。
当初、テイラーは「ラナにヴァース2を歌ってほしい」と望んでいたそうですが、ラナはバックコーラスに徹しました。
それはラナ自身も一人のソングライターであるからこそ、テイラーの歌詞のストーリーを理解しての判断だったのではないかと思います。
さいごに
人間、一生のうちに出会える異性の人数は限られています。
出会えたことさえ奇跡なのに、自分の恋した相手が、同時期に同じ熱量で自分に恋してくれているなんて、もう超常現象に近いことです。
そんな一生に一度あるかないかの奇跡的な恋愛が「Snow On The Beach」です。
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