夏の終わりは、恋の終わり。
あのときの、あの楽しかった夏を想起させる曲です。
この記事では、テイラー・スウィフト(Taylor Swift)の2006年のデビュー曲「Tim MacGraw(ティム・マックグロウ)」について、どんな曲なのか、曲にはどんな背景があるのか、どんな雰囲気に流したい曲なのかをご紹介します。
その前に、曲名「Tim MacGraw」の意味を確認しておきましよう。
ティム・マックグロウとは、アメリカで活躍するカントリー歌手兼俳優のことです。
なぜテイラーは、他のカントリー歌手の名前を曲のタイトルに付けたのでしょうか?
この記事で曲のストーリーを知って、この曲をより好きになってもらえたら幸いです。
【要約】押さえておきたいポイント
この曲をひと言で表すなら?
この曲をひと言で表すと、「忘れられないひと夏と、そのときの記憶を呼び覚ますトリガー曲」です。
交際していたときの2人にしか分からない「あのときのあれ(トリガー)」がたくさん詰まった曲です。
それはテイラーと元恋人の場合、ティム・マックグロウの曲だったり、丈の短いブラックドレスだったり、色褪せたブルージーンズだったりです。
元恋人との思い出の品を思い浮かべると、そのモノに詰まった思い出がふつふつと浮かび上がってくる感じ。
そんな切なさと懐かしさが混ざった感情に包まれる曲です。
“He”と”You”と時系列
歌詞の特徴として、【過去】を語ったり【現在】を語ったりで、パートで時系列が前後します。
【過去】を語るときの相手の人称名詞は”He”、別れた後から【現在】を語るときの相手の人称名詞は”You”が用いられています。
[Verse 1][Pre-Chorus] ⇒ 【過去】
付き合っていた頃の夏の思い出を語る。
↓
[Chorus] ⇒ 【現在】
2人だけの思い出の曲やモノで私を思い出してほしいと訴える。
↓
[Verse 2] ⇒ 【過去~現在】
2人の関係が終わり、独り悲しみに暮れた9月を振り返る。
関係が終わった3年前の夏から、彼に渡せていない手紙がベッドの下に眠っている。
↓
[Bridge] ⇒【現在】
街に戻ってきた語り手は、彼の家の玄関先に手紙を残す。
↓
[Chorus] ⇒ 【現在】
↓
手紙には、ティム・マックグロウやラジオをきっかけに、あの頃のことを思い出してほしい、と書かれていた。
何歳の時につくった?
この曲は、テイラーが高校1年生(16歳)の時に作詞し、高校2年生のときにリリースした曲です。
メロディーは数学の授業中に思いつき、それを当時直面していた恋人との問題と関連付けたとのこと。
曲の背景にあるもの
テイラーが当時抱えていた恋人との問題とは、付き合っていた先輩(高3)が大学進学で地元を離れるため、年末には別れることになるとわかっていたことです。
(※註:アメリカの大学の入学シーズンは、主に9月と1月)
この曲が単なる失恋の曲とは異なるのが、その別れの原因となった「遠距離感」を感じさせるところにあると思います。
元恋人が距離的に遠い場所にいるからこそ、何かのきっかけ、つまり、歌詞のコーラスで語られるテイラーを思い出すためのトリガーが活き、「私のことを想って」と歌う箇所に切実さを感じさせます。
独りで自由にどこでも行けるような年齢になれば遠距離恋愛のハードルは下がりますが、高校生にとっての遠距離恋愛は永遠に会えなくなってしまうような遠さを感じます。
そんな永遠の別れのような雰囲気があるからこそ、歌詞に重みを感じさせます。
テイラーを陰で支えた存在
この曲をテイラーと一緒に作曲したのが、カントリーミュージックのソングライター、リズ・ローズ(Liz Rose)です。
テイラーとリズは、この曲のあとも、「Teardrops On My Guitar」「You Belong with Me」「All Too Well(Taylor’s Version)」などのヒット曲も一緒に生み出しています。
テイラーは歌手として成功するために、両親を説得して音楽の聖地であるテネシー州ナッシュビルに一家で引っ越します。
当時のテイラーの年齢は、13歳(中学1年生)。
ナッシュビルで作曲家として経験を積む中、作曲家が集まるイベントで出会ったのが、リズ・ローズです。
当時のテイラーの年齢は、14歳(中学2年生)。リズは46歳でした。
テイラーは、リズと毎週火曜日の放課後に2時間のライティングセッションをして、ソングライティングの腕を磨いたそうです。
リズは、決してテイラーを子ども扱いすることはなく、「作曲中の14歳のテイラーは、子どもではなかった」と関係者に語っています。
年齢関係なく、同じ作曲家として敬意を示しているところに、リズの器の大きさを感じます。
リズと素晴らしい関係を築いたテイラーは、第52回グラミー賞の授賞式のスピーチで、こう述べています。
「彼女と共同作曲を始めた頃は、彼女にはそれをする理由は全くもってなかったし、私はレーベルにも所属してなかったし、彼女に提供できるものは何もありませんでした。それなのに、私と作曲してくれたことを心から嬉しく思います」
テイラーとリズの関係性がうかがえる感動的なスピーチです。
(Youtubeで”52nd GRAMMY Awards Taylor Swift and Liz Rose“をチェック)
【深掘り】ティム・マックグロウが表すもの
前述の要約でわかるとおり、この曲はティム・マックグロウ自身のことを言及した曲ではありません。
ティム・マックグロウは、彼女のお気に入りの曲、さらにその先の、彼女自身を思い出してもらうためのトリガーなのです。
歌詞に登場する、テイラーのお気に入りのティム・マックグロウの曲とは、「Can’t Tell Me Nothin’」(2004年)です。
- タイトルの意味:「Can’t Tell Me Nothin’」は「私には何も言えない」という意味。
- 歌詞の意味:語り手に対して、周りの人が「あれは危険だ」とか「あれをするな」とか、ごちゃごちゃ忠告するが、結局は「自分が何をしたいか」という考えの下に行動し、痛い目を見てでも、苦労して自分を見出さなくてはならないことについて書かれています。
なぜこの曲が、当時高校生だったテイラーにとってお気に入りの曲だったのか、容易に理解できます。
高校生は、子どもと大人の狭間にいるような曖昧な時期です。
見た目も考え方も、大人とほぼ変わらないのに、親や教師など大人たちから「これはするな、危険だ」と忠告を受けます。
そんな制限を受ける中で、「どんな忠告をされても、結局は自分で物事を決めて、間違いを犯してでも、自分で問題を解決すべきこと」を歌うティム・マックグロウの曲は、当時高校生だった彼女にとって、大いに気付かされるものがあったと察します。
現にテイラーは、「何歳だからこうしなくてはいけない」という制限から飛び出して、自分の夢を叶えるために、日中は学校に通い、放課後は作曲家としての活動を続けていたのです。
【シチュエーション】こんな雰囲気にオススメの曲
- 相手のことが好きなままだけど、遠距離が原因で、別れることになる(なった)とき
- 10代の頃のうぶな恋愛を懐かしみたいとき
- 1つの恋愛が終わったが、憎しみや恨みの感情はなく、いい思い出として昇華したいとき
- 元恋人との思い出のモノが捨てられず、見かえして感傷に浸りたいとき
- 地元に帰省するときのBGMにもオススメ
さいごに
元恋人に対して、未練が全くないと言えば、嘘になりますが、この曲は過去の恋人のことを引きずった未練たっぷりの曲というよりも、離れ離れになってしまった元恋人に、過去の幸福や喜びを共有した唯一の相手として、地元を離れても覚えていてほしいという思いを一心に感じる作品です。

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