まさか、こんな短期間で売れるとは誰が予想できたでしょうか?
デビューシングルがリリースされると、1週間も経たずして数々のチャートで1位を獲得。
いまだ「ホリデーソングを除くデイリーストリーミング曲」の1位として記録を伸ばし続けているアーティスト、オリヴィア・ロドリゴです。
そんな今年の顔といえる、オリヴィア・ロドリゴのプロフィールとデビューアルバム『SOUR』についてこの記事で紹介したいと思います。
歌手としてのキャリアを築くまで
まずは、「オリヴィア・ロドリゴってどんなアーティスト?」という方向けに、彼女が今のキャリアを築くまでのプロフィールをご紹介します。
誕生日はいつ?
2003年2月20日 (2023年現在、20歳)
出身はどこ?
カリフォルニア州テメキュラ
いまはどこに住んでる?
成人年齢である18歳までは、女優業に専念するため家族でLAにいました。
しかし、成人して今現現在は、ネバダ州で一人暮らしをしているそうです。
兄弟姉妹はいる?
一人っ子。
どんな両親?
父方はフィリピン系。母方はドイツ系とアイルランド系。
女優からのスタート
最初から、歌手として活動していたわけではありません。
歌手として活動する前の女優としてのキャリアをここにまとめておきます。
11~12歳ごろ 2015年、オールド・ネイビー(GAP傘下の衣服ブランド)のCMで女優デビュー。
同年、映画『An American Girl: Grace Stirs Up Success』で主役に抜擢。
翌年、ディズニー・チャンネルのテレビシリーズ『やりすぎ配信! ビザードバーク(原題:Bizaardvark)』でペイジ役として3シーズン出演。
16歳 2019年、ディズニープラスのシリーズ『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』に主演。
音楽キャリアのこと
ユニバーサルミュージックグループ傘下のレーベルと2020年に契約。
2021年1月8日に、デビューシングをリリース。この曲は、音楽プロデューサーのダン・ニグロ(Dan Nigro)と共同制作したもの。そのほかの曲も、ほぼ全てをダンと共同で手掛けています。
この2人の出会いがおもしろい。
ダンは友だちに、オリヴィアが出演した 『ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル』 のサントラを薦めれ、そこで初めて彼女の歌声に触れる。
オリヴィアの歌声に圧倒されたダンは、さらに彼女のインスタグラムにアップされていたデモバージョンの「happier」を聴く。
すぐさまダンはDMを送って、一緒にコラボしたいと申し出たそう。
それから一緒にデビューアルバムを手掛けて今に至る。
デビューアルバム『SOUR』
一言でアルバムを表すなら、「失恋」アルバム。
1曲目の「brutal」、9曲目の「jealousy, jealousy」と11曲目の「hope ur ok」は恋愛がテーマではありませんが、それ以外の8曲は元恋人との恋愛事情についてです。
それでは、それぞれの曲の特徴とタイトルの意味をご紹介します。
brutal
brutalの意味は、「野蛮な、残忍な、残酷な、荒々しい、歯に衣着せぬ」。
何が残酷かということ、オリヴィアが生きている10代のこと。
「10代は黄金期」だと大人は言うけれど、そんなことは全くないと歌っています。
なぜなら、10代こそが劣等感を感じたり、不安に感じたり、情報に左右されたり、自分を無価値だと感じやすいから。
歌詞に出てくるEgo Crushは造語。彼女はこの表現について、インタビューで語っています。
「Ego Crushとは、力不足で劣っていて、それに腹を立てているような感じです。丸々あなたがなくなったような感じです。これはティーンエイジャーが感じるもので成長の過程で感じるものだと思います。」
このたった1つの表現からも、曲全体の歌詞からも、10代の自己肯定感や自尊感情の低さを浮き彫りにした曲だと言えます。
この曲を1曲目に持ってきたアイデアは、粋。
しかも、この指示は周りの反対を押し切ってオリヴィア自身が決めたというのだから、なおさら彼女のセンスに脱帽します。
いま10代を生きている現役世代は同世代のオリヴィアの曲を聴いて共感できると思います。
しかし、この曲、そしてこのアルバムは、10代に限定したものではありません。
アルバムの始まりであるこの曲は、世代の垣根を飛び越えてゆけることを示唆しています。
なぜなら、「brutal」は90年代のパンクやロックを聴いてきた世代にも刺さる懐かしいサウンドだからです。
それはアルバムを共同制作したプロデューサー、1982年生まれのダン・ニグロの影響が少なからずあると思います。
この曲は、彼が10代だったあの頃を、90年代を思い出させる作品なのかもしれません。
だから、もう10代を過ぎていたとしても、楽しめる曲であり、アルバムなのです。
traitor
traitorの意味は、「裏切り者、内通者、反逆者」。
自分と付き合っている時から他の人にうつつを抜かし、2人の関係が終わった直後に気になっていた相手と付き合い始める、デリカシーの欠片もない卑怯な元恋人のことを歌っています。
何をもって「二股」「浮気」としますか?
2人で密会してたら?手をつないでたら?個人の感覚によると思います。
しかし、この曲のように、誰と何をしたかというよりも、心が自分から離れてしまっているのなら、それはもう裏切りなのです。
drivers license
drivers licenseの意味は、「運転免許証」。
運転免許証を持っている人は、免許取りたての頃を思い出してみてください。
「友だちと、ここに行こう!」「恋人とドライブに行こう!」など、大人になれた気分の高揚と移動の自由度が増した喜びで包まれていたと思います。
オリヴィアも例外ではありません。
恋人と、免許が取れた後の話で盛り上がっていたに違いありません。
しかし、その話は無駄に終わってしまいます。
なぜか?
免許が取れたその頃には、恋人は自分の隣ではなく、他の人の隣にいるからです。
切ない。
冒頭のワクワクから真っ逆さまに転落していく様子が、ああ切ない。
Ego Crushのあとは、car crash(交通事故)に遭うのではと心配になる曲です。
1 step forward, 3 steps back
1 step forward, 3 steps backの意味は、「一歩進んで、三歩下がる」。
「一歩進んで、二歩下がる」という日本語があるが、英語でも同じく「1 step forward, 2 steps back」という表現があり、この曲名はそれをもじったもの。
さらに曲調は、Taylor Swift(テイラー・スウィフト)の「New Year’s Day」を拝借しています。
(もちろん許可を得ているため、クレジットにはテイラーとプロジューサーのジャック・アントノフの名前あり)
どんな曲かというと、前に進むどころか、横にも縦にも後ろにも振り回される相手との関係について歌っています。
今日はご機嫌かと思えば、翌日には手のひらを返したように傷つけてくるような、自分の自尊心を弱らせかねない危険な相手との恋愛曲です。
deja vu
日本語でも広く知られている言葉「デジャヴ(deja vu)」は、経験したことがないのにあるような既視感のこと。
誰にとっての「デジャヴ」かと言えば、「drivers license」で自分をあっさり捨てた元恋人のことです。
新しい彼女と共有していることは一切合切、自分と付き合っていた頃にやってたこと。既視感あるでしょ?と皮肉たっぷりに歌っているのです。
注目したいのが、ミュージックビデオ(以下、MV)。
「drivers license」のMVで登場したのと全く同じ白い車を、オリヴィアが走らせているシーンから始まります。
そして最後のシーンでは、車を運転しているのが、オリヴィアではなく新しい彼女になっているのです。
これは、その新しい彼女もまた彼の犠牲者の1人となり、捨てられることになることを示唆しているのではないかと思います。歌詞もMVも皮肉満載です。
good 4 u
good 4(for) u(you)とは、いい意味でも皮肉を込めた意味でも使われる「よかったね」を表す表現。
この曲は、間違いなく後者。
「よくもあっさりと新しい彼女を見つけて平気でいられるわね/幸せそうで健康そうでよかったね」、と怒りと皮肉が込められた歌です。
ガソリンを買って元恋人の部屋に火をつけるというめちゃくちゃなMVが清々しいので、ぜひ観てみてください。
enough for you
(be) enough for youは「あなたに十分似合う人になる、釣り合う人になる」という意味。
相手を愛するあまり、相手の好みに合うように自分をちょっとでも変えた経験はありませんか?
その結果、別れる時には恋人を失う以上に自分まで見失うという惨事になってしまう。
この曲はまさにその惨事を描いています。
恋愛の失敗をさらけ出すことは勇気のいることです。
曲にして世に出すのだから、なおさらです。
相手に合わせてしまう自分の弱さを歌った曲ですが、ここまでさらけ出せるオリヴィアの肝の据わりように驚かされました。彼女はタフだと思います。
happier
「幸せそうな」という意味のhappyの比較級happierが使われているこの曲は、「good 4 u」の続きと言えます。
なぜなら 「good 4 u」 で「幸せそうでよかった」と言いつつも、この曲では「それ以上幸せにならないで」と歌っているのです。
元恋人は次の恋愛に移ったのに自分はまだ移れない、相手へのイライラと未練と愛憎がごちゃ混ぜになった曲です。
jealousy, jealousy
日本語でそのまま使われる「ジェラシー(jealousy)」は、「嫉妬、妬み」のこと。
この曲は、元恋人との関係を歌ったこれまでのトラックとは打って変わって、ソーシャルメディアについて歌っています。
隣の芝生は青く見える、と言いますが、その言葉どおりの曲。
他人のキラキラなSNSを見て劣等感を抱くことについて書かれています。
他人と自分を比べてしまうことは普遍的な人間のテーマなので、どの年代でも共感できる内容です。
favorite crime
favorite crimeを和訳すると「お気に入りの犯罪」という意味ですが、どういうことでしょうか?
これは、ハート(heart)が割られた(break)したことを、犯罪に見立てて歌った曲。
これまでの曲では、自分のハートが割られたことに対して相手を非難してきたので、「お気に入り」と言っているのは、皮肉ですね。
でもこの犯罪には、少なからず自分も加担していたと反省しているのが注目してもらいたい点です。
hope ur ok
最後のトラックは、「あなた(たち)が元気でいることを願っている」という意味の「hope ur ok」。
家庭環境に問題のあった幼少期の友だちに思いをはせ、今は連絡を取っていないけど、過去を水に流し元気でいることを心から願っている、と歌う曲です。
大切なのは、過去に縛られて生きるのではなく、過去の苦い経験から学びを得て、憎しみを全て捨て去る勇気を持つこと。
この最後のトラックにたどり着くまで、元恋人への憎しみや怒り、悲しみ、他人への妬み、自分への劣等感など、酸いも甘いも経験した10代ではなく、酸っぱいだけのサワー(SOUR)な経験を描いたトラックつづきでした。
でも、最後はホープ(hope)で終わっています。
タイトルは「hope ur ok」になっていますが、行間を読むと「hope I’m ok」のニュアンスが含まれていると思います。
歌詞に登場した子たちのように、自分も過去のサワーな経験を乗り越えてOKな状態になりたいという望み(hope)が込められていると読み解きました。
さいごに
なぜ彼女の曲は、今この瞬間も再生され続けているのでしょうか?最短で売れたのでしょうか?
歌唱力、作詞作曲力、MVのセンスもさることながら、ティーンエイジャーからの共感を生むだけでなく、10代を過ぎた人にも「あの頃」にタイムスリップできるような、どこか懐かしい気分にさせる曲を生み出しているからだと思います。
コメント