泣きたくなるような、心と体の汚れやけがれを落としてくれるような、優しい気分になれる歌声。
そんな声の持ち主、マギー・ロジャースについて今回はご紹介します。
彼女はこれまでにアルバムを、インディーズ時代に2つ、キャピトル・レコードと契約して1つリリースしています。
それぞれのアルバム曲について、計3回にわたって取り上げます。
すでに彼女のことを知っている人もまだ知らない人も、この記事を通して、彼女の歌詞と魅力を味わってもらえたらと思います。
マギー・ロジャースとは?
Margaret Debay Rogers、1994年4月25日、アメリカのメリーランド州イーストン生まれ。
若くして音楽の才能があり、7歳からハープ、中学生からピアノとギターと作詞作曲を学び始める。
楽器は他にもバンジョーを演奏できる。
押さえておきたい初アルバム 『The Echo』 (2012年5月18日リリース)
それでは、マギーが最初にリリースしたアルバムまで遡りたいと思います。最初にリリースしたのは、『The Echo』。こちらはレーベルと契約を結んでいないときに自主制作し、ウェブ上にアップしたアルバムです。それぞれの曲の特徴を紹介します。
Echo Hymn (Intro)
歌声は入っていませんが、ハープの音色が美しくずっと聴いていてられる、心と体の緊張をほぐしてくれるようなヒーリングソング。
Hymnは英語で「賛美歌、聖歌」という意味。
Embers
タイトルのember(s)の意味とは?
「石炭や薪まどの燃えさし」「過去の感情の名残」のこと。
はじめに辞書に出てくる意味は「燃えさし」ですが、「過去の感情の名残」という意味も持っていて、この歌詞ではダブルミーニングになっています。
歌詞に出てくるfight or flightの意味とは?
「戦うか逃げるか反応」のこと。
危機的状況に置かれたときに、逃げる、もしくは戦うかを選択し生き延びる、動物が持つ恐怖への反応のこと。
「火事場の馬鹿力」という言葉が、日本語ではしっくりくる生理学の表現です。
マギーは、戦ったのか、逃げたのか?気になる方はぜひ歌詞をご覧ください。
お気に入りの歌詞
Clocks they always seem to lie
Maggie Rogers
(いつも嘘をついているように見える時計)
時計は本来、時を正確に刻むものですが、少し時計から目を離しているとあっという間に時間が過ぎてしまっていて、「この時計、壊れているのでは?」と思っている様子がこの歌詞から読み取れます。
Deep In the Earth
歌詞に出てくるashes to ashes and dust to dustの意味とは?
葬儀で読まれる祈りの言葉にこんな文があります。
“we therefore commit this body to the ground, earth to earth, ashes to ashes, dust to dust;”
(それゆえ遺体を地にゆだねる。土は土に、灰は灰に、ちりはちりに)
earthもashesもdustもgroundの同語の意味として使われていて、これは聖書に書かれている「神が土のちりを使って人間を創造した」という部分と深く関係しています。
Creatures
歌詞に出てくるcrawling on my kneesの意味とは?
辞書には、”crawl on one’s hands and knees”で載っています。
「両手両足を付いて這う、はいはいする」という意味です。
文脈によりますが、「許しを請うために嘆願する」というニュアンスを含んでいる表現です。
お気に入りの歌詞
And we are all just creatures, baby
Maggie Rogers
Fumbling towards the light
(我々はみな単なる生き物にすぎない、光のある方へ不器用に探し回っている)
fumbleは「ぎこちなく動く」というニュアンスを持つ単語で、そこに人間の不器用さが現れている歌詞です。
この歌詞を読んで頭に浮かんだ映像が、外灯に集まる昆虫たち。
昆虫も人間も同じ生き物creaturesとして、明かりを求めているのかもしれません。
その明かりというのは、人によっては注目されたいという承認欲求、つまりスポットライトの明かりだったり、安心感を得たい心の安寧を求める太陽の明かりだったり。
あなたはどんな明かりを求めて、さまよっていますか?
Wolves
お気に入りの歌詞
And I’m not waiting for the wolves to drag my body
Maggie Rogers
(オオカミに体を引きずられるのを待ってるんじゃない)
「オオカミ」の捉え方は、人によって自由に解釈できそうです。
いずれにせよ、この歌詞は今立ち止まっている人に「戦うか逃げるか」の最初の一歩を踏み出す後押しをしてくれます。
By Morning
お気に入りの歌詞
The road to my heart is stark but I’m alive
Maggie Rogers
(ハートに通じる道は殺風景だけどまだ生きてる)
starkは「空っぽでシンプルで、飾り気のない」と言ったニュアンスを持つ単語。
個性がないとか、才能がないとか、人は他人と比べて悩みがちですが、極論を言うと生きているだけでラッキーだと思います。
そんな悩みを払拭してくれる歌詞です。
And I’ll be home by morning
Maggie Rogers
And the morning light will warm my tired bones
(朝には家にいるはず/朝日が私の疲れた骨を温めてくれる)
朝の太陽の光は、今日も1日がんばろうという気分にさせてくれる偉大なパワーを持っています。
この歌詞からは、そんな自然エネルギーの力強さを感じることができます。
A Love Letter
お気に入りの歌詞
Dear old tree in my front yard
Maggie Rogers
Thank you for the shade
(前庭に植わってある親愛なる老木さん/日陰をどうもありがとう)
上記引用の節から始まるこの曲は、はじめから心を奪われます。
次の節では、Dear old chickens(親愛なる年老いたニワトリさん)その次は、Dear old house(親愛なる昔のお家さん)と続きます。
まるで絵本を読んでいるような、心があたたかくなる歌詞になっています。
Kids Like Us
お気に入りの歌詞
Two hands on the bike I rode
Maggie Rogers
Just me and my mom
But I haven’t rode in a long while
Because I drive most of the time
(自転車に添えられている2つの手/私と母の/でも長いこと乗ってない/運転してばっかり)
時間の経過と、幼少期と現在の対比がイメージしやすい歌詞です。
子どもから大人になっていくこと、歳を取るということについて、書かれた曲です。
Satellite
歌詞に出てくるsaving graceとは?
「取り柄」のこと。
saving graceとは、「たくさんの悪い点が前提にあって、それを補うために加えられる良い点」のことです。
例えば、全体的に出来の悪い映画を鑑賞したとして、唯一音楽が良かった場合に”The only saving grace for this film is the music.”と言った言い方をします。
日本語の「取り柄」は長所と同義語として使われていますが、活用例から判断すると、ことばに若干のネガティブなニュアンスが込められていると感じます。
例えば、「元気が取り柄なの」「丈夫だけが取り柄」「笑顔が取り柄」など。
とくに取り立てて優れた部分が自分に見つからないときに使うニュアンスで、私たちは自然に「長所」と「取り柄」を使い分けているのではないかと思います。
You (Embers Reprise)
2曲目の『Embers』の一部分を繰り返した1分50秒ほどの短い曲です。
最後に
本記事で紹介した『The Echo』のデモを、ニューヨーク大学(NYU)の入学願書の一部として提出したマギー。
アルバムを聴いてもらえばわかりますが、独自で制作したアルバムの完成度がこれほど高ければ、大学側もすぐに飛びついたことでしょう。
彼女は2012年に入学を果たし、大学2年時に次なる自主アルバム『Blood Ballet』をリリース。このアルバムは次の記事で取り上げます。
ちなみに自主制作したアルバム 『The Echo』 と 『Blood Ballet』 は、Bandcampというサイトで全トラック無料で再生することができます。
もちろん全曲聴いてもらいたいですが、紹介コメントや気になる歌詞の曲だけでも聴いてもらえたら幸いです。
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