野性味。この曲は、この言葉に集約されるのではないかと思う。
Lorde(ロード)の2025年6月20日に解禁された新曲「Hammer(ハンマー)」にはどんなストーリーが込められているのか、この記事で考察します。
「Hammer」の意味と「ハンマー」が表すもの
「Hammer」は、釘やものを打つのに使う道具。
「ハンマー、金槌」のことです。
歌詞の中で「Hammer」は、たった1度しか登場しません。
ヴァース1:“あなたがハンマーを持っていると、すべてが釘のように見える”
英語のことわざに、次のようなものがあります。
“If all you have is a hammer, everything looks like a nail.”
(ハンマーしか持っていなければ、全てが釘に見える)
これは「マズローの五段階欲求」で知られるアメリカの心理学者アブラハム・マズローの著書に出てくる言葉です。
使い慣れた道具に対する過度な依存・偏執や認知バイアスのことを言い表しています。
では、歌詞の中ではどんなニュアンスで使われているのでしょうか?
次項から考察していきます。
【歌詞の意味考察】Lorde「Hammer」
ロードは、この曲のことを“正直に言うと、都会生活と性的興奮に対する頌歌”と述べています。
どんなストーリーが込められているのか、深掘りしていきます。
[Verse 1] 体の火照り、秘密の部屋へ
ヴァース1は、都会の熱気が感じられる情景から始まります。
アスファルトから熱気が立ち込め、噴水のしぶきを首元に感じている語り手。
そこで“水銀温度計の上昇”、つまり体の火照りを感じているわけです。
体の火照りの原因は何なのか。
都会という刺激的な場所が、人を恋愛に駆り立てるのかもしれません。
それとも、排卵日が関係している?
どちらの理由であれ、“ハンマーを持っていると、すべてが釘のように見える”。
つまり、欲望に囚われてしまって、周りのものが全て性的対象に見えてしまうことを暗示しているのではないかと思います。
意味がいまいち掴めていないのは、後半部です。
“私の手の中の液晶”は、スマホ(画面)のことだと理解できますが、“蛇舌の人に、私の心の部屋を見せる”に続きます。
この歌詞を読んで思い浮かんだことは「ハリー・ポッター」です。
ハリー・ポッターを連想する私の頭がぶっ飛んでいるのかもしれませんが、なぜそう思ったのか書いていきます。
ハリー・ポッターシリーズ2作目のタイトルは、「ハリー・ポッターと秘密の部屋(Harry Potter and the Chamber of Secrets)」です。
※注意:ここから映画のネタバレを含みます。
ハリーは、秘密の部屋に通じる入り口が女子トイレであることを突き止めます。
蛇のマークが入った蛇口を見つけ、ハリーは蛇語を唱えます。
すると、手洗い場が動き出し、秘密の部屋への入り口があらわになります。
「蛇語」は英語で、「Parseltongue(パーセルタング)」。
物語上の造語です。
J・K・ローリングは、この名前を「口唇裂のような口に問題のある人を表す古い言葉」から取ったと述べています。
口唇裂とは、唇が割れる病気のこと。
また、「parse」という単語は「解析する、分析する」という意味ですが、文脈によっては「分割する」という意味もあります。
「分割された(parse)」「舌(tongue)」で、パーセルタング。
2つに割れている蛇の舌を表しているものと思われます。
話を歌詞に戻しましょう。
歌詞に出てくる「スネークタング」は「パーセルタング」の言い換え表現ではないかと思います。
そうなると、歌詞の“蛇舌の人”というのは、蛇語を話せる「ハリー・ポッター」のことを仄めかしているのではないかという考えに至りました。
でも、なぜハリーのような人になら心を開くのでしょうか?
この部分を読み解くヒントになったのは、「蛇語」です。
ハリーは、ヴォルデモートのように蛇語を話せる特殊な魔法使いです。
なぜ話せるのか。
(映画ネタバレになりますが)ヴォルデモートの魂の一部を宿しているからです。
そのことでハリーは、自身の中にあるもう一人の自分(ヴォルデモート)の存在に、悩み、戸惑い、苦しみます。
自分は何者なのか?
この問いは、この曲をとおしても伝わってくる部分です。
自分は女なのか、男なのか、何者なのか、と自身に問うロード。
同じような悩みを持つ相手として、ハリー・ポッターを引き合いに出したのではないかと推察します。
では、“手の中の液晶”は何を指すのか?
ロードは、アルバムに関するインタビューで「スマホの液晶」について、こう答えています。
“(スマホには)液晶が内蔵されていて、命令すると絵や言葉が出てくる道具…中世の人に見せたら、魔法使いに思われるでしょう”
スマホは、現代の魔法使いの杖。
そして、“噴水の霧が私の首にキスをする”部分も、映画に出てきた秘密の部屋に通じる入口、女子トイレを表しているのかもしれません。
女子トイレに住む幽霊(嘆きのマートル)がすべての蛇口を全開にして水浸しにしていました。
ロードはハリーの中に自分を見たのかもしれません。
ハリー・ポッターと全く関係ないのかものかもしれませんが、ロードが2023年頃ロンドンに住みそこで新曲制作していた背景もあるため、完全には否定できない考えです。
この曲は、アルバムの1曲目。
ロードは、私たちを彼女の秘密の部屋、心の内へと誘おうとしているのかもしれません。
(別の考えも後々浮かんでくるかもしれませんが、いまのところハリポタのことしか浮かんでこなかったので、感じたことをありのまま書いておきます。)
[Pre-Chorus]女の日、男の日
プレコーラスは、新たな人物“you”が登場します。
語り手は、愛情表現の慣れていない相手のことを理解しつつも、私たちに繋がりはあるんじゃないかと本気で信じています。
この「相手」というのは、ヴァース1の流れから性的対象になる相手とも捉えることができます。
しかし、私はロードの男性的な面のことを指しているのではないかと思います。
そう思った理由は、MVにあります。
このプレコーラスは曲の中で2回歌われますが、この歌詞を歌っている時は水色のジャージを着たロード。
MVはロードのいろんな一面を映しています。
性別は流動的で、女性的な日があったり、男性的な日があったり。
でも、女性的な面も男性的な面もすべてひっくるめてロードです。
だから、素っ気ない相手もロードの一部を表しているのではないかと思います。
[Chorus]混沌の中の安らぎ
人は、悩み、苦しみ、怒り、恐れといった感情に振り回され、脳内が落ち着かない生き物です。
しかし、心の平安を保つ方法があります。
それは、「ありのままを受け入れること」です。
それが悟りの境地と呼ばれるもの。
私たちの脳に絶えず沸き起こる感情に囚われず、ありのままの自分を受け入れることで、心の安寧を取り戻すことができます。
白黒つけずに流れに身を任せることを歌ったパートです。
[Verse 2]行き当たりばったり
ロード自身が語っているとおり、ヴァース2もヴァース1と同じく、「都会生活」の一部分が切り取られています。
ニューヨークのカナル・ストリートに行って、ピアスを開けたり、オーラ写真を撮ったり。
MVでは、木陰で腰の辺りにタトゥーを入れてもらっています。
このパートは、「自分は何者だろうか?」と自分探しをしているように思えます。
だから、興味の赴くままに行き当たりばったりで行動している様子が伝わってきます。
[Outro]ぶち壊し
最後のパートは、ハンマーで自分をずたぼろにぶち壊しているかのようなイメージが浮かんできます。
しかし、それは決して怖いものでも悪いものでもなく、世間の自分のイメージとか固定概念とか、今の自分には必要のないもの=釘を、純粋に歌声だけの存在になるまでハンマーで叩いて平らにしていっているような感じです。
破壊と再生。
新しい自分に生まれ変わるため、自らハンマーを握って破壊を促進させているのかもしれません。
このパートの“you”は、世間一般を表す“you”だと解釈しました。
地獄を味わい、舞い戻ったロード。
地獄の縁から送られた私たちに贈られたポストカードは、今回のアルバム『Virgin』のことなのかもしれません。
さいごに:MV考察
裸でハンモックに横たわる姿は、網目と肌が一体化してまるで蛇のよう。
日光浴を愉しみ、食パンをついばみ、頭を前後に揺らす姿は、まるで鳩のよう。
イエス・キリスト、またの名を、ロード(Lord)は、次の言葉を残した。
“蛇のように賢く、鳩のように素直に”
相反する二つの生き物が、ロードの中に備わっているように思う。
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