※自分で和訳してみても、人の和訳を読んでみても、「意味が分からない」「ストーリーが浮かんでこない」という人のお悩みを解決する記事です。
2020年2月13日、ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)の「No Time To Die」がリリースされました。
この曲は、 2021年10月1日に公開された007シリーズの映画『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』のためにつくられた曲です。
ビリーと兄フィニアスは映画の台本を一部読んでから曲づくりをしたそうで、映画の内容に踏み込んだ歌詞になっています。
この曲の歌詞には一体どんなストーリーが込められているのか、歌詞の意味を考察していきます。
【Verse 1】未練と後悔
最初のヴァースは、語り手の「自責の念」が存分に感じられる歌詞です。
語り手は、“気づくべきだった”“独りで立ち去れた”と声を漏らしており、後悔の気持ちが全面に表れています。
“気づくべきだった”のは、具体的に何だったのでしょうか?
直接的に歌詞では語られてはいません。
しかし、文脈から判断するに≪あなた(You)≫の「本性」と考えるのが自然かと思います。
次の“独りで立ち去れた”というのは、ボンドガールを助けるジェームズ・ボンドさながら、独りで立ち去れたのに、実際には相手に手を差し伸べて助けてあげたことが考察できます。
気になる点は、≪あなた≫との関係性です。
“二人で一つだった”“あなたは私の人生だった”と語られていることから、語り手にとって≪あなた≫は、かけがえのないパートナーだったことが容易に推測できます。
しかし、その相手には何やら隠し事があるようで、語り手の誠実な愛は馬鹿を見ることになってしまいます。
果たして二人の恋愛の行方はどう展開していくのでしょうか。
【Chorus】冷静と決意
ヴァース1では、自分がいかに愚かだったかを語り手が後悔している様が描かれていました。
そして相手への未練を多少なりとも感じさせる歌詞でした。
では、コーラスはどうでしょうか?
コーラスの語り手は、相手への熱が冷めて、より冷静に状況を整理しているように感じます。
“すっかり嘘に乗せられた”“あなたは一度も私の味方じゃなかった”“一度ならず二度も私を欺く”と、直接的な言葉で裏切り行為があったことが綴られているのが特徴です。
おもしろいと思ったのは、ヴァース1とコーラスの温度差です。
ヴァース1は自責の念に駆られて弱々しい印象を受けますが、コーラスでは相手のことを冷静に分析し“もう二度と私の泣き顔を見ることはない”“死ぬ暇すらない”と強い決意を感じる印象です。
このコーラスの、冷徹で感情をあまり表に出さないクールな人物描写は、我々がジェームズ・ボンドに抱いている印象と同じではないでしょうか。
ボンドといえば、クールで大人の余裕があるイメージです。
もしかすると、ヴァース1では我々の知らない腹の底から湧き出た感情むき出しで人間くさい一面を表現し、コーラスでは我々がイメージしているクールなボンドを表しているのかもしれません。
【Verse 2】新たな任務
ヴァース1とコーラスの歌詞の意味を考察してみると、同一人物の心情の変化を味わうことができました。
では、ヴァース2はどうでしょうか?
ヴァース2は、苦しむだけ苦しんだ末、“もうあなたを気にしていない”と一蹴しています。
それどころか、“過去の顔ぶれが戻ってくる”“また別の教訓が待ち受ける”と、ヴァース2では恋愛以外の部分に焦点で当てられているのが特徴です。
新たな冒険への旅立ちを仄めかし、相手のことを気にしている場合じゃない、ここでメソメソくたばってる場合じゃない様子がうかがえます。
しかし、ビリーの歌い方や曲調からしても、まだ相手のことを引きずっており、強がりで放たれた言葉のようにも思えます。
ここで、曲のタイトル「No Time To Die」とはどんな意味でしょうか?
日本語の意味は「死ぬ暇すらない」「死ぬ時ではない」ですが、どういう意味合いで使っているのでしょうか。
映画での意味合いとは全く異なると思いますが、純粋に歌詞の範囲内で考察した限りは、「相手の裏切りによってもたらされた苦しみや悲しみに暮れている場合ではない」と受け取ることができます。
“過去の顔ぶれ”とは、誰のことでしょうか?
映画の内容に触れるので、次の見出しで解説します。
【映画と歌詞のマッチング度】50%
※映画のネタバレを含みます。
結論から言うと、「映画の前半のストーリー」になぞらえた歌詞ではないかと思います。
映画の序盤の流れを簡単にまとめると、以下のとおりです。
ボンドは仕事を辞め、愛するマドレーヌと暮らしていました。しかし、犯罪組織の攻撃を受けたことで、マドレーヌが裏切ってボンドの居所をバラしたのではないかと思い込み、ボンドは彼女に一方的に別れを告げます。(Verse 1&Chorus)
それから5年後、過去の顔ぶれと言えるCIAのフェリックス・ライターが『007 慰めの報酬(2008年)』ぶりに再登場して、引退しているボンドに任務の依頼を持ちかけます。最終的に任務を引き受けたボンドは、ウィルス兵器の奪還と細菌学者の救出に向けて動き出すのでした。(Verse 2)
上にまとめた映画の内容は、映画の前半にすぎません。
なので、映画と歌詞のマッチング度は、50%としました。
それでも前半の映画の流れと歌詞は密接にリンクしていると言えます。
映画の後半に触れると、映画序盤で別れたマドレーヌが再び登場し、ボンドと再会します。
「過去の顔ぶれ」の中には、マドレーヌも含まれていると考えると、その後の歌詞“また別の教訓が待ち受ける”の部分に含みを感じます。
さいごに
この曲は、愛する人に裏切られたことを綴った曲でした。
しかし、映画ではボンドが裏切られたと一方的に思い込んだだけで、実際マドレーヌは裏切っていませんでした。
映画の内容を踏まえたうえでこの曲を味わうと、スパイという職業柄か、深く愛した人でさえ疑ってしまうボンドの性が不憫にも思えてくる作品です。
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