それぞれの業界で有名になった成功者は、一体どんな生活を送っているのでしょうか。
頻繁に飛行機を乗り回し、豪遊ざんまい…?
友人や家族からは毎日のように電話がかかってくる…?
世間から才能を認められた成功者は、忙しいながらも充実した毎日を過ごしていると想像するかもしれません。
しかし、現実は違うようです。
少なくともシーアの場合は。
今回ご紹介するのは、シーアの6th AL『1000 Forms of Fear』に収録の「Big Girls Cry」です。
直訳すると「大人少女たちは泣く」という意味ですが、どんな意味が込められているのでしょうか。
なぜ大人なのに、ガールという言葉がタイトルに付けられているのでしょうか?
この記事では、細かな英語のニュアンスや、各パートの内容を解説します。
いろんな解釈ができるのが歌詞の魅力です。一考察が参考になれば、幸いです。
【Verse 1の解説】
【考察】あなたは本当に“タフガール”?
最初のヴァースは、人称名詞≪I≫は登場せず、“タフガール”なる人物の描写が描かれています。
日本語で「タフな人」というと、体力も精神力もある強い人のイメージです。
英語でも同じような意味合いです。
しかし、この“タフガール”。
名前に反して、「本当にタフなのか?」とツッコミをいれたくなるようなキャラクターです。
競争の激しい弱肉強食の世界に身を置いているせいか、人を愛する時間も憎む時間もないし、人とのドラマ的展開も人をもてあそぶ暇もないと、だいぶ心に余裕のない感じが伝わってきます。
挙句の果てには、“魂を痛めたタフガール”と、タフな人しからぬことを言っています。
“タフガール”という言葉を選んでいる意図は、本当は強くないけれど、自分に言い聞かせて懸命にタフであろうとしているためだと思われます。
【解説】なぜwomanではなくgirl?
なぜシーアは大人の女性なのに、なぜタイトルや“タフガール”にgirlが使われているのでしょうか?
じつは、実際の年齢に関係なく精神的な未熟さを表すときにも、girlを用いるそうです。
ここで「女の人/女性」を表す単語の違いをおさらいしておきましょう。
- girl: (肉体的、精神的に)若い女性、(まだ学校に通っている)少女
男の子を表す場合は、「boy」 - woman: 大人の女性
男性を表す場合は、「man」 - female: (生物学的な観点から見て)メス
オスを表す場合は、「male」 - lady: (教養や気品のある)女性
男性を表す場合は、「gentleman」
歌詞に話を戻すと、シーアは誰に助けを求めることもせず、忙しさから寂しさを紛らわしています。
でも本当は、ただ強がっているだけで、孤独を感じています。
寂しいのです。
ひとりでいられないのです。
その精神的な脆さや不安定さを表すために、womanではなくgirlを使っているのだと思います。
【Pre-Chorusの解説】
【考察】≪タフガール≫と≪私≫の違い
最初のヴァースでは“タフガール”の話でしたが、次のプレコーラスでは人称名詞≪I≫が登場します。
内容としては、誰からも着信がないのに電話を確認したり、部屋で独りきり有料チャンネルを視聴したりと、語り手≪私≫のわびしい日常が描かれています。
最初のパートでは≪タフガール≫の生活、このパートでは≪私≫の生活を描いていますが、なぜ書き分けているのでしょうか?
これは≪タフガール≫という言葉から発想を膨らませて、スーパーヒーローをイメージしているのではないかと捉えています。
スーパーマンは、心身ともにタフで、スーパーパワーを使っているときは輝いていますが、一方で、普段の生活は地味で、孤独と戦っています。
そんなスーパーマンのように、歌手として成功し多忙な生活を送っている自分を≪タフガール≫で表現し、誰も知らない素の自分を≪私≫で表現して、書き分けているのだと思います。
【英語表現】on one’s own / by oneself /aloneの違いは?
「ひとりで」という意味を表すon one’s ownですが、同様の意味でby oneselfやaloneがあります。
多くの場合、置換することができますが、微妙なニュアンスの違いをここでおさらいしておきましょう。
- on one’s own: onのコアイメージはピタッとくっついている「接触」。
その人が持っている能力にすべてを預けるイメージから、「他を頼らずに自力で → ひとりで」というニュアンスです。
例) I live on my own.
(独り暮らしをしています、独り立ちしています) - by oneself: byのコアイメージは「物事のそばで、近くで」。
その人扱える範囲内で物事をするというイメージから、「自分の範囲内で → ひとりで」というニュアンスです。
例) I could never have solved this problem by myself without you.
(君がいなかったら、私ひとりではこの問題を解決できなかった) - alone: 「周りに誰もいない状況 → ひとりで」。
例) I was alone at home yesterday.
(昨日は家に引きこもっていた)
歌詞に戻ると、今回使われている表現はon my ownですので、「誰かに頼ろうと電話を掛けたり、家に呼び寄せたりすることなく、自分の力だけで、ひとりで過ごした」というニュアンスになります。
後半のブリッジパートには、aloneを使った部分があります。
on my ownとaloneのニュアンスの違いを感じてみましょう。
【Chorusの解説】
【考察】なぜgirlじゃなくてgirls?
プレコーラスで語られていた孤独がピークに達し、心の叫びが吐露されているのがこのパートです。
“大人少女は心が引き裂かれているとき、化粧も見た目もお構いなしで泣くものだ”と現在形で定義づけています。
なぜgirlに複数形のsが付いてgirlsで表現しているのでしょうか。
大人になると、泣くのが下手になります。
世間は大人の涙に厳しく、泣こうもんなら「大人なのに…」とか「大人なんだから…」と冷たい目で見られるか、厄介がられるのがオチです。
しかし、シーアはこの曲で大人も子どもみたいに泣いていいと歌ってくれています。
それが、“Big Girls”に込められた意図ではないかと思います。
【Verse 2の解説】
【考察】新たな登場人物≪あなた≫は誰?
ヴァース2では、最初に≪タフガール≫と言った後に≪私≫と言い直しています。
プレコーラス部分でも解説したとおり、2人は同一人物だということです。
“≪タフガール≫、≪私≫は苦痛の中にいる”と言い直しているところから、タフガールを演じることよりも、素の自分に近い状態です。
このパートはトップに立つ苦痛や孤独を歌っていますが、新たな登場人物≪あなた≫が出てきます。
≪私≫にシャンパンを注がれる≪あなた≫は誰でしょうか。
ヒントはブリッジパートにあると思います。
ブリッジでは、”私は目覚める”と何度も繰り返したあとに、“たったひとりで”と歌っています。
さらに、ヴァース1でも誰からも着信がないことが綴られています。
つまり、自分で自分にお酒を注いでいるのではないかと推察しています。
まとめ
この曲の歌詞は、前半と後半で内容がガラリと変わっていました。
前半は、なんとかタフガールであろうとしています。
孤独を紛らわすために忙しくして、弱肉強食の世界で生き残ろうとしています。
後半では、自分の弱さや打たれ弱さを認めて、泣き崩れた素の自分を曝け出しています。
シーアの最大の魅力はそこにあると思います。
いろんな苦労を重ねてきた彼女だからこそ、心の弱さに寄り添ってくれ、共感を与えてくれます。
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