“easy on”とは、英英辞典によると「相手に厳しくしない」という意味です。
日本語だと、「お手柔らかに」「手加減してね」という言葉がしっくりきます。
アデルは一体誰に対して、「手加減してね(easy on me)」と言っているのでしょうか?
この記事で、各パートに込められた意味を考察します。
【曲の背景】
前回のアルバム『25』から6年ぶりに、4thアルバム『30』が2021年11月19日にリリースされました。
アルバムのテーマは、アデル曰く“離婚”だそうです。
アデルは、実業家のサイモン・コネッキーと5年間の長い交際を経て、2016年に入籍。
交際期間中に、長男アンジェロ君を出産していますが、2018年に離婚しました。
破局から2年ほどかけて、2人は親権や財産分与など離婚条件を話し合い、泥沼化することなく合意に至ったものの、大人が話し合いをしている最中、蚊帳の外にされた人物がいます。
それが、2021年現在、9歳になる息子のアンジェロ君。
母親のアデルに対して「なんでパパと一緒に住めないの?」など、問いただしてくるそうです。
アデルの身からすると、子どもに理解してもらえるまで離婚について説明するのは非常に骨の折れること。
ほんの9歳の子どもなら、なおさらです。
「手加減して」ほしいのです。
冒頭の問いの答えは、もうわかりましたね。
そうです。今回ご紹介する『Easy On Me』は、息子に対して「手加減して」と言っている曲なのです。
この曲に限らず、AL『30』内のほとんどの曲が「元夫との離婚」や「息子への手紙」について綴られています。
【解釈と考察】
ここからは、各パートで何を伝えようとしているのか考察していきます。
いろんな解釈ができるのが歌詞の魅力です。一考察が参考になりましたら、幸いです。
【Verse 1】冷めきった夫婦関係
ヴァース1は、情景描写から始まります。
望みはあるが、砂金の採れない川がある。そこに語り手は、泳ぐ気になせず手を洗ってきた。
抽象的なメタファー全開ですが、このパートは冷めきった夫婦関係を表していると思われます。
元夫との関係を“川”にたとえて、二人の間には川の中で砂金を見つけるときのような、ワクワク感やドキドキ感といった気持ちの高揚がまったくないことが読み取れます。
その“川”で語り手は、“ずっと手を洗ってきた”と歌っていますが、ここは何を意味するのでしょうか。
“wash one’s hands”には、文字通りの意味「手を洗う」のほかに、「責任を放棄する」「誰か/何かとこれ以上関わりを持つことを拒否する」の意味もあります。
つまり、二人の関係の中にまだ修復できそうな可能性・ホープはあっても、語り手はずっと責任逃れをしてきて、深入りしたくないのです。
夫と話し合いたくないのです。
その結果が、“沈黙に溺れる”という表現で、関係が修復不可能な域まで達したことを仄めかしていると思われます。
【Chorus】息子への弁明
コーラスは、離婚に至ったことを息子に弁明しているパートです。
自分が、いかに子どもだったか。
周りに気を配る心の余裕がなかったか。
離婚について考える時間の余裕がなかったか。
反省と弁明の気持ちを伝えて、息子に手加減してほしいことを歌っています。
【Verse 2】努力と諦め
ヴァース2は、ヴァース1同様、夫婦関係のことを歌っています。
違うところは、努力してもどうにもならなかった夫婦関係を息子に再度弁明しているところです。
アデルも元夫もおのおののやり方に固執してそれを変えようとしなかったことや、妻であるため母であるために、二人を優先して自分を変えてきたことが綴られています。
そしてついに、アデルの限界が来たことが、最後のラインで判明します。
【Bridge】母と息子の溝
ブリッジは、息子に理解されないもどかしさが表れているパートです。
精一杯の誠意をもって説明すれば状況を理解してもらえるとアデルは期待していましたが、息子に正しく伝わっていない様子がこのパートから伝わってきます。
まとめ
アデルの離婚に至るまでの葛藤や息子に対する正直な思いが綴られた曲でした。
みなさんは、この曲を聴いてどう感じましたか?
私は、アデルが自分自身と向き合っている非常に内省的な歌詞だと感じられました。
実際、この曲が含まれているアルバム『30』は、 他のアルバムに比べて非常にパーソナルな内容になっているとアデル自身が認めています。
“息子への公開レター”をコンセプトに制作された本作とアルバムは、2022年2月9日のブリット・アワード(Brits)で主要3部門を受賞しました。
アワードのスピーチで、アデルは「この賞(アルバム・オブ・ザ・イヤー)は息子に捧げる」と言っています。
それほど、アルバム全曲は息子を意識して創られているのです。
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