【要約&考察】Lana Del Rey -Off to the Races-

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Lana Del Rey
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off to the racesは、興奮と刺激がいっぱいの賭け事・競馬が語源のことば。

レースの始まり、ゲートが開くと同時に、馬たちが一斉にレースに飛び出すことを文字通りに表している。

そこから転じて、日常表現では「すぐに行動する」といった意味や、比喩的な意味で「活発に/精力的に/積極的に何かを始める」といった意味で用いられる。

では、ラナ・デル・レイが2011年にリリースした曲「Off to the Races」の意味は、どんなニュアンスでしょうか?

各パートには、どんな意味が込められているのでしょうか?

考察してみたいと思います。

【要約と押さえておきたいポイント】

  • この曲の「Off to the Races」の意味は、共依存関係の相手との恋愛に飛び込んでゆく、のめり込んでゆくようなニュアンスだと思われる。
  • 具体的には、中年の年上男性との型破りなロマンスを歌った曲。
    →裕福な男は、年下の相手に頼られ、貢ぐことで、自分の価値を見出していく。
    →語り手(女)は、自堕落な自分を包み込んでくれ、裕福な暮らしをさせてくれる相手に依存していく。
    この曲は、そんな二人の共依存の病的な愛が存分に表現されている。
  • ウラジーミル・ナボコフが書いた小説『ロリータ』からインスピレーションを得ており、小説の内容と類似する点が散見される。
【3分でわかる】小説『ロリータ』あらすじ

※ネタバレが含まれるので、ご注意ください。
ヨーロッパからアメリカに亡命してきた36歳のハンバートは、初恋の相手によく似た12歳のドローレス(愛称ロリータ)と出会う。

ロリータのそばに居たいがため、ハンバートは、ロリータの母親で未亡人シャーロットと結婚する。

シャーロットが不慮の事故で亡くなると、ハンバートはロリータを騙し、車での逃避行に出る。

しかしロリータが成長するにつれて、ハンバートに対する魅力が薄れていき、2年後の14歳で、ロリータは失踪する。

ハンバートはロリータの消息を追って探し回り、消息から3年後、17歳になったロリータからの手紙を受け取る。

手紙は、結婚して子どもを身ごもっているから、お金を送ってほしいという内容だった。

この手紙を手掛かりに、ロリータの元へ車を走らせるハンバート。

二人は再会し、ハンバートはロリータの失踪を手伝った男の名前を知る。

自身のもとからロリータを奪ったその男を殺害したハンバートは、逮捕されて獄中で病死し、ロリータも出産時に命を落とすのであった。

  • 声について
    →【ヴァース/リフレイン】この2つのパートの声はとても色っぽい。歌詞も、年上と付き合っていることで、年齢の割に裕福な生活をしている様子が描かれている。ワルの男を自慢するような背伸びした女性のイメージで歌っている感じがする。
    →【プレコーラス/コーラス/ブリッジ】この3つのパートは、かわいらしくあどけない歌声。小説のロリータのように、駄々っ子で未熟さ全開の歌詞も歌い方とマッチしている。

【考察】

【Verse 1】2人の登場人物

冒頭のヴァース1では、歌詞に登場する2人のキャラクターの特徴が描写されています。

語り手の性格はいたって無神経で、L.A.でなにやら過去がある人物。

このパートではL.A.が2回出てきます。

ラナは、別の曲「Gods & Monsters」で、L.A.のことを次のように表現しています。

〔かつて天使だった私の純粋さが奪われた場所〕。

愛、名声、夢、お金などを手に入れるためには手段を選ばずに何でもしないと生き残れないのが、ラナの抱いているL.A.のイメージなのでしょう。

純粋だった少女が、悪い意味で大都会L.A.に染まっていることを、この歌詞では表現していると思われます。

そして、その少女を自分のそばに置いている人物が登場します。

それが、ワルで中年の年上男性。

≪彼のコカインの心臓≫という表現からも、その中年男のヤバさが伝わってきます。

彼は、彼女の過去も、性格も、ものともせずに、歳の離れた若い彼女を深く愛しているようですが、さて2人の恋愛はどう着地するのでしょうか。

【Refrain 1】内面や関係性の深堀り

リフレインは、2人のキャラクターがより深掘りされています。

赤いマニキュアを塗った語り手は、白いビキニを外して、青いさざ波を立たせながら、プールに入っていく描写が表現されています。

赤・白・青といえば、アメリカの国旗・星条旗。

それぞれの色に意味があります。

白は、純真さと純白

赤は、大胆さと勇気

青は、警戒と忍耐と正義

この意味を元に歌詞を考察すると、語り手は純真さを捨て、大胆さを武器に、警戒心と忍耐心をもってこの恋愛に向き合っているのかもしれません。

一方の中年男は、一緒にプールに入ることなく、彼女の様子を眺めながらビンテージの高級シャンパンを嗜んでいるのです。

お相手の男性には、たっぷりとした大人の余裕が漂い、裕福であることが感じ取れるパートです。

【Pre-Chorus】このパート、誰視点?

ロリータ、我が命の光、我が腰の炎。我が罪、我が魂。
Lolita, light of my life, fire of my loins. My sin, my soul.

ウラジーミル・ナボコフ『ロリータ』

プレコーラスの出だし“我が命の光、我が腰の炎”は、小説『ロリータ』の冒頭をそのまま引用しています。

そしてこの文章は、小説の主人公である中年男ハンバートが綴ったもの。

であるならば、このプレコーラスの歌詞も、小説同様に、中年男視点だと考えるのが自然です。

しかし、このパート最後の≪私に金貨をちょうだい/コインをちょうだい≫で矛盾が生じます。

なぜなら、前のパートで考察したとおり、中年男は裕福でお金をせびるようなキャラではありません。

再び小説の話になりますが、中年男ハンバートは少女ロリータに金を渡しては、彼女のご機嫌を取っていました。

ロリータは、義父であるハンバートから何度もお金をもらっていたのです。

ですので、このパートはお金をもらっては好き放題に振舞う女性視点の歪んだ愛を表現しているのではないかと思われます。

あえてロリータに依存するハンバートの言葉を引用しているところに、病的で偏執的な愛を感じます。

病的な愛・マニア(Mania)とは?

愛には、いくつかの種類があります。

その中の1つに、マニア(Mania)と呼ばれる愛の種類があります。

この愛は共依存の関係から生じるもので、自分を満たしてくれる相手に抱く愛です。

情熱的な愛を表すエロス(Eros)や、献身的で無償の愛を表すアガペー(Agape)と比べると、いかに毒をはらんだ愛かが、強調されます。

非常に病的なこの愛は、この曲ないしアルバム全体のコンセプトともいえるでしょう。

【Chorus】じゃじゃ馬娘

コーラスは、語り手の奔放さや未熟さが全面に表現されているパートです。

酔っぱらっていたり、島全体が刑務所施設のライカーズ島に収容されていたりと、まるで制御の効かない暴れ馬。

自身でクレイジーだと認めるほどの素行の悪さが表現されています。

現に、ラナは幼くしてアルコール依存症となり、14歳のときに寄宿舎送りにされた過去があります。

そんな10代のラナの、荒れ果てた過去が充分に反映されたパートです。

そして、未熟で自立して行動できない語り手の幼さゆえ、相手の年上男性にあれこれと救いを求めている様子が伝わってきます。

【Verse 2】恋愛はギャンブル

ヴァース2は、中年男性が語り手に惹かれている理由が表れているパートです。

語り手の心はタールのように真っ黒、薄っぺらでぶっ飛んだ生活を送っているのに対し、男は全く気にしないどころか、むしろ、そのハチャメチャさを気に入って、彼女を崇拝しているのです。

彼女に惚れ込んでいるのが最も伝わる表現が、〔血色の赤ジャムのように甘い心〕です。

男の心は赤く、女の心は黒い。

興奮と刺激がいっぱいの賭け事・ルーレット盤を彷彿とさせる二人の対照的な心の色味は、この恋愛がギャンブルだということを暗示しているのかもしれません。

【Refrain 2】利害一致

最初のリフレイン同様、2つ目のリフレインも二人の関係性が非常によく表れているパートです。

はじめに出てくる「シャトー・マーモント」はセレブ御用達の高級ホテル。

そんなホテルに彼女を泊めて、中年男の上機嫌な様子が伝わってきます。

自分よりも年下の相手に貢いで、貢いで、貢ぎ倒して、優越感に浸っている彼。

一方の語り手も、彼がいるおかげで、ドレスを着たり、おめかししたり、高級ホテルに泊まったりできて、利害が完全に一致した関係性ができあがっています。

【Bridge】依存を告白

ブリッジは、語り手が相手に依存していることを認め、神に二人の運命を委ねている様子が感じ取れます。

救済者である彼なしでは、精神的にも経済的にも生きれないほどの病的な依存状態になっていることが一番ストレートに表現されています。

さいごに

頼ってくれる相手に依存する人。

頼りになる相手に依存する人。

お互いが過剰に依存し合う共依存の関係。

この曲には、いくつかのアルコールの名前や賭け事を暗示するような表現が登場しますが、それも一つの依存先。

人間は何かに依存せずにはいられないのかもしれない。

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