マルーン色とは、フランス語の「マロン(栗)」に由来することば。
少し紫がかった暗い赤。赤茶色のことです。
マルーン色の曲と聴いて、どんなストーリーを想像しますか?
深みのある秋色から発想を飛ばして、愛の深まりを描いた恋愛を想像するかもしれません。
暗みのある赤色から発想を飛ばして、痛みを伴う苦い恋愛を想像するかもしれません。
もしくは、その両方?
このように、色で心情を表したテイラー・スウィフト(Taylor Swift)の「Maroon(マルーン)」は、解釈の余白をたっぷりと孕んだ作品であり、そこがこの曲の魅力でもあります。
世界中のSwifties(テイラーファンの総称)の間でも、さまざまな解釈が絶えません。
「ロゼワインは、スカーレットは、ルビーは…、それぞれ何を意味しているのか…?」
この記事で、10thアルバム『Midnights』収録の「Maroon」の中身を考察します。
いろんな解釈ができるのが歌詞の魅力です。一考察が参考になれば幸いです。
【要約】どんな曲なのか?
※この曲の詳細についてテイラー自身が言及しているソースが見つからなかったため、要約は個人で歌詞を分析し、まとめたものです。
- この曲は、AL『RED(Taylor’s Version)』時代(Era)の眠れぬ夜を描いた作品ではないかと思われる。
AL『Midnights』の約1年前に、再録したAL『RED(Taylor’s Version)』がリリースされた。
AL『RED(Taylor’s Version)』は、さまざまな種類の失恋ソングがつまったアルバムである。
過去の失恋を振り返ったことで、『RED(Taylor’s Version)』の恋愛は、情熱/愛/嫉妬/怒り/フラストレーションを同時に表す“赤色”ではなく、よりダークなニュアンスを含んだ“マルーン色だった”と再定義したのだと思われる。
- 「Maroon」とAL『RED(Taylor’s Version)』の親和性は、他にもある。
『RED(Taylor’s Version)』のジャケット写真は、元のジャケット写真とは大きく異なり、秋色が前面に押し出されている。「Maroon」にも秋色を思わせる色が登場し、無論、マロンが語源の“マルーン色”も秋色である。
歌詞に焦点を当てると、「We Are Never Ever Getting Back Together」「Red」「All Too Well」「I Bet You Think About Me」などで歌われている≪あなた≫(同じ元彼)の人物描写・情景描写・心情描写が、「Maroon」のと似ている点が散見される。
- 各パートのおおまなか内容と、色で表現される感情表現
【Verse 1:恋愛に発展】 ピンク色
【Chorus 1:深まりゆく関係を回想】 良い意味でマルーン色
【Verse 2:別れる寸前】グレー色
【Chorus 2:崩れゆく関係を回想】 悪い意味でマルーン色
【Bridge:記憶に張り付く負の遺産】色なし
【Chorus 3:いい記憶と悪い記憶の両方を回想】憎しみ強めの愛憎混じった意味でマルーン色
※Chorus1→2→3へ進むにしたがって、やつれた低い声になっていくのも、この解釈を支えるポイント
- 歌詞のほとんどが過去形で書かれているため、おおむね過去の恋愛を回想した曲と思われる。しかし、各パートの最後のラインとブリッジパートのみが現在形で書かれており≪あなた≫の存在が不気味なほど際立つ。
その意図は、「All Too Well」でも語られているとおり、“いま現在でも嫌というほどあなたとの思い出を覚えている”ことを仄めかしていると思われる。
【考察】[Verse 1]ロゼワインの恋と2つの伏線?
ヴァース1は、相手と急接近して一気に燃え上がった恋愛が歌われている模様です。
時間の感覚がなくなるほど二人の時間が居心地よくて楽しくて、安物のロゼワインで酔っぱらい、挙句の果てには、共に一夜を明かして床の上で目を覚ますという始末。
「スイートな恋愛」や「若々しい恋愛」を表現するには十分なことばが散りばめられているのが、このパートの特徴です。
色で表現するなら、まさしく歌詞に登場するロゼワインのようなピンク色です。
しかし、この甘い恋愛を描いたヴァース1の中に、このあとのストーリー展開を知っているからこそ、そして、テイラーが大のイースターエッグ(隠しメッセージ/隠しヒント)好きだと知っているからこそ、二人の関係が崩れることを仄めかした伏線らしき言葉を2つ感じています。
【伏線1】“お香”が暗示するものとは?
一夜を明かした二人が、“≪あなた≫のレコード棚の上で焚いたお香を片付ける”シーンが出てきます。
これは、まるでこのあとの二人の展開を物語っているようです。
“お香”は燃えている間はいい気分にさせてくれますが、燃え終われば灰と化します。
同様に、二人の関係は急接近し燃え上がっていますが、いずれお香の灰と同じ運命をたどることを仄めかしているのかもしれません。
また、“お香”の火種は赤色からグレー色へ、色の変化が起きるアイテムという点も、色で感情の変化を表したこの曲にぴったりの言葉選びだと思います。
【伏線2】“安物ロゼワイン”は本当ですか?
“安いスクリューキャップのロゼワイン”が出てきますが、このセリフの発言者≪あなた≫は誤解をしています。
「スクリューキャップのワイン=安物、コルクのワイン=高級」というイメージ。
これは、世界共通で持たれている誤解です。
スクリューキャップワインにも高級なものが少なからずあります。
この一般人が間違えやすい誤解を、ワイン愛飲家で自宅にワインセラーまで持っているテイラーが、知らないわけがありません。
では、ここで意図していることは何でしょうか。
なぜ間違った通説を述べた≪あなた≫の言葉を、わざわざ歌詞にしているのでしょう?
しかも、テイラーの全曲の歌詞の中で初めて登場させたas*という下品な言葉を使ってまで表現しているのはなぜでしょう?
1つは、≪あなた≫に「教養がないこと」を仄めかしているかと思います。
二人で飲み明かしたワインが本当に安物かどうかは定かではありません。
スクリューキャップだから安物に違いないという決めつけでものを言っている感じがします。
そして、このお相手の「誤解」と「教養のなさ」を表した人物描写は、ヴァース2の“あなたがバラだと思っていたカーネーション”と、別の言葉に言い換えて表現されています。
もう1つは、≪あなた≫が語り手およびそのルームメイトを下に見ているのではないかということです。
ここは『RED(Taylor’s Version)』の「I Bet You Think About Me」で歌われているような“ミスター上から目線さん”を仄めかしているのではないかと思います。
【考察】[Chorus 1]〈オモテ〉愛
コーラスは、曲全体をとおして、計3回流れます。
1回目と2回目では、1単語を除いてすべて同じ歌詞です。
しかし、この曖昧で解釈の余地を残したコーラスは、1回目と2~3回目では全く異なる解釈ができます。
〈オモテ〉と〈ウラ〉の解釈があるうち、まずは最初のコーラスで表される〈オモテ〉の解釈から。
“≪あなた≫を選んだ≪私≫”から始まるコーラスは、二人の関係が深まっていった思い出を色で形容していると捉えています。
“≪あなた≫のワインがはねて付いたTシャツのバーガンディ”からは、さぞ楽しくてお酒が進んだ様子が伺えますし、相手のこぼしたワインが自分に付くぐらい二人の距離感が近いこともわかります。
“血色をした頬”からは、楽しくお酒が進んだ結果とも思えるし、相手に夢中で赤らめた頬とも捉えられます。
“鎖骨に見えるマーク”からは、キスマーク(hickey)が想像できます。
“電話に広がった錆び“からは、毎日会うようになったため電話が必要なくなったことが感じ取れます。
“家と呼んでた唇”からは、≪あなた≫との時間がいかに居心地がよかったかが想像できます。
※“used to”か“used/to”か、どちらで解釈するかでネイティブでも意見が分かれています。〈オモテ〉は前者、〈ウラ〉は後者で捉えています。
ヴァース1のロゼワインの薄ピンク色とは、ずいぶん色味が深まりました。
それらの思い出を一色で総括して、一旦は“スカーレット”という色で形容しています。
スカーレットとは、黄色みを帯びた赤色のこと。
ここ、違和感ありませんでしたか?
いままで、“バーガンディ”、“血色”、“錆色”と、濃いめの赤紫色や赤茶色で統一されていましたが、スカーレット色はかなり明るい赤色です。
この曲の中で、黄色みのあるスカーレットがぽつんと浮いてみえます。
そこで思い出してもらいたいのが、AL『RED(Taylor’s Version)』収録の「Red」です。
テイラーは、冬が訪れる前の秋色のことを、情熱的でカラフルで短命だと歌っていました。
つまり、別れ(冬)が訪れる前のつかの間のカラフルで燃え上がるような恋愛を、紅葉を連想させる黄色みがかったスカーレットで表現しているのではないかと思います。
そして、テイラーはすぐに言い直して、訂正しています。
“それはマルーン色だった”、と。
この“マルーン”がどんな心情を表すのか。
≪あなた≫への愛の深まり、ピークを表しているのではないかと思います。
「All Too Well」のショートフィルムの序盤(0:30-2:32)、親密な交際シーンが描かれています。
テイラー役の女性が、相手との仲睦まじいシーンで着ているセーターの色はマルーン色です。
しかし、そのセーターを着ているのは15分近くあるフィルムの中で、最初の2分程度。
ここが二人の恋愛のピークです。
映画の後半にも、マルーン色の服を着ているシーンが出てきます。Chorus2で詳述します。
【考察】[Verse 2]破局前
ヴァース2は、一転して破局寸前の険悪なムードが描かれています。
ここでも、色を連想させるような言葉が登場します。
“hazy(霞かかった)”という言葉からは、グレーのような寒々しい色を想像できます。
“≪あなた≫がバラだと勘違いしていたカーネーション”も、カラーコードを調べるとグレーがかったかすんだピンク色です。
ロゼワインのピンク色とは大違い。
“ルビー”は何を指すでしょうか。
最初にこの曲を聴いたとき、“ルビー”=≪あなた≫だと思っていたんですが、よく見るとルビーは複数形になっているため、筋が通りません。
そこで考え直した結果、“ルビー”は1つ前の歌詞“複数形のローズ”の言い換え表現ではないかと解釈しています。
英語圏での赤バラの花ことばは、愛と情熱(Love and Passion)。
そして、ルビーに込められた石ことばにも、同じ意味が込められています。
さらに、ルビーはラテン語の「赤(rubeus)」を由来とする言葉です。
つまり、語り手は≪あなた≫に対するレッドな部分、愛や情熱を諦めてしまった。
だから、愛と情熱を表す「Red」ではなく「Maroonだった」につながるのではないかと思います。
【考察】[Chorus 2]〈ウラ〉憎
“≪あなた≫を失った≪私≫”から始まる2回目のコーラスは、2人の関係が崩れっていた思い出を色で形容していると解釈しています。
“≪あなた≫のワインがはねて付いたTシャツのバーガンディ”からは、相手が激高してワインが飛び散ったと思わせます。
“血色をした頬”からは、怒りで赤らめた頬、もしくは、号泣して真っ赤になった頬を想像させます。
“鎖骨に見えるマーク”からは、キスマークではなく語り手を傷つけたアザなのかもしれません。
“電話に広がった錆び“からは、連絡を取り合うことがなくなって錆びていったと解釈できます。
“家へ電話するため使った唇”からは、関係が完全に終わったことを仄めかしています。
それらの苦い思い出を一括して、“スカーレット”。
ここで思い出してもらいたいのが、「All Too Well(10 Miunute Version)」です。
テイラーは、今でも鮮明に覚えている過去の恋愛のことを、“紅葉した葉がジグソーパズルのピースのように正しい場所に落ちていく(はまっていく)”、と歌っています。
つまり、関係が終わろうとも、鮮明に思い出される≪あなた≫との恋愛を、ここでは“スカーレット”と表現しているのではないかと思います。
そして“スカーレット”が紅葉を表すのだとしたら、“マルーン”は枯れ葉や落ち葉です。
つまり、紅葉のように鮮やかに思い出されることはあっても、二人の恋愛は決して美化されるようなものではなく、変色し、萎れ、朽ちゆく枯れ葉や落ち葉のように、どん底に落ちていくような暗い恋愛だったことを“マルーン”で表しているのだと思います。
「All Too Well」のショートフィルムの後半(8:18-8:37)、テイラー演じる女性がベッドの上で頬を真っ赤にして泣いている映像が映ります。
このシーンは、別れた後も相手が電話をかけてきて、残酷にも心を振り回され、ずたぼろにされる場面です。
暗がりではっきりと見えませんが、序盤とは違う茶色のトップスを着ています。これもマルーン色ではないかと思います。
【考察】[Bridge]負の遺産
Love is so short, forgetting is so long.
PABLO NERUDA
愛はあまりにも短く 忘却はあまりにも長い
「All Too Well」のショートフィルムは、チリの詩人パブロ・ネルーダのこの詩から始まります。
この詩のように、短期間で破局したとしても、交際時の思い出が今でも浮かんできて頭を悩ましている様子が現在形で描かれています。
レガシーは、これからも一生背負わっていかないといけないような心の傷、負の遺産として解釈しています。
【考察】[Chorus 3]愛憎
最後に流れるコーラスは、最初の甘い思い出も後の苦い思い出も含めて、二人の過去をすべて反芻しているように思います。
ただ、ニュアンスとしては、「もう勘弁してくれ」です。
もう過去の恋愛を思い出したくないのに、ループ動画のように巻き戻されては何度も再生される負の遺産の記憶や映像。
それにうんざりした様子が、歌い方から伝わってきます。
この曲をSpotifyで流すと表示されるイメージ動画。
テイラーのうんざり顔がすべてを物語っています。
さいごに
この曲では、いろんな色が出てきて、過去の思い出が回想されていました。
≪あなた≫との思い出がどんな色だったか、色をめぐる旅が“マルーン”という答えにたどり着いた終着点。
それが、この曲です。
マルーンが意味するものとは、深まりゆく関係だったのか、崩れゆく関係だったのか。
「Maroon」をAL『Red』のリブート作品と考えると、その両方のニュアンスを含んだ作品だと思います。
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