2024年4月19日にリリースされた、テイラー・スウィフト(Taylor Swift)の11枚目のアルバム『The Tortured Poets Department』。
事前告知では、このアルバムは16曲の予定でした(ボーナストラック除く)。
しかし、アルバムリリースから2時間後。
新たに15曲を追加され、計31曲(事前告知のあった4曲のボーナストラックを含む)のアルバム『The Tortured Poets Department: The Anthology』がリリースされました。
このアルバムは、2枚組のアルバムだったのです。
この記事では、最初の16曲について、どんな曲なのかを簡単にご紹介します。
- 【全曲解説パート1】
- Fortnight (feat. Post Malone)
- The Tortured Poets Department
- My Boy Only Breaks His Favorite Toys
- Down Bad
- So Long, London
- But Daddy I Love Him
- Fresh Out the Slammer
- Florida!!! (feat Florence + the Machine)
- Guilty as Sin?
- Who’s Afraid of Little Old Me?
- I Can Fix Him (No Really I Can)
- loml
- I Can Do It With a Broken Heart
- The Smallest Man Who Ever Lived
- The Alchemy
- Clara Bow
- 【さいごに】
【全曲解説パート1】
※各曲について、テイラー本人が語っている情報がまだ多くありません。情報が入り次第、更新予定です。
※解説には歌詞を読み込んだうえでの個人の考察・解釈が含まれます。
Fortnight (feat. Post Malone)
1曲目の「Fortnight」の意味は「2週間」。
これは、古英語の「fourteen nights(14の夜)」に由来しています。
「14の夜」と聞いてピンとくるのは、前回のアルバム『Midnights(ミッドナイツ)』のコンセプトが、「13の眠れぬ夜」だったということ。
前回のアルバムから大事なバトンを受け取った1曲目、「Fortnight」。
それは「14番目の眠れぬ夜」を表しているのかもしれません。
では具体的にどんな曲なのかというと、深く愛していた相手と別れ、精神的に悩み苦しみ、互いに別々の方と結婚するも、語り手はいまだにその相手のことが忘れられずにいることを歌った曲です。
ほぼ全て過去形で綴られた歌詞の中に、ポツンと浮き出る現在形の“I love you”。
いまだにその相手の存在に悩み、想い続けている心情が表現されており、胸が痛みます。
具体的にどの元彼かとのことかは特筆しませんが、「Fortnight」がイギリス英語だということに関係していると思われます。
The Tortured Poets Department
アルバム名と同名曲の2曲目「The Tortured Poets Department」を和訳すると、「悩める詩人たちの部署」です。
「詩人たち」と複数形であることから、語り手もそのお相手も、詩や歌詞を書くような人物だということが推察できます。
この曲は、解読の難しい相手との恋愛を歌った曲。
自傷モードに入ったり、別れるなら自殺すると仄めかしたり、歌詞に登場するお相手は、かなり扱いの難しい人物です。
それでも、語り手が相手を理解し愛そうとできるのは、同業者として同じ苦悩を抱えているからだろうと推察できます。
My Boy Only Breaks His Favorite Toys
3曲目「My Boy Only Breaks His Favorite Toys」の意味は、「私の彼はお気に入りのおもちゃだけを壊す」
これは、恋愛関係の悪化を歌った曲。
“砂の城の女王”と表現される語り手は、繊細で壊れやすい人物だとわかります。
そして、そのお城を丁寧に扱うことなく、ずんずんと足を踏み入れて壊していく相手が非常に対照的です。
この恋愛はごっこ遊びのようなもので、成熟した恋愛関係を築けなかったのではないかと読み取れます。
Down Bad
“Down Bad”にはスラングの意味として、「誰かにひどく惹かれる」という意味がありますが、この曲にこの意味は該当しません。
4曲目「Down Bad」の意味は、文字通り“Down Bad(ダウンしている、ひどく)”で、「ひどく落ち込んでいる」です。
この曲は、ひどく惹かれた相手を自分のものにできない苛立ちや絶望や喪失感を表現した曲。
“双子の片割れをなくしたよう”と表現される部分は、いかに二人が心を通わせたソウルメイトだったかが感じ取れます。
So Long, London
5曲目「So Long, London」の意味は、「さようなら、ロンドン」。
これは、恋愛関係の完全な終わりを表現した曲。
歌詞の前半で、語り手は関係を繋ぎとめておくための努力をしていますが、それが原因で心身ともに健康ではなくなっていく様子が描かれています。
そして、後半では、この関係を続けるためのいかなる延命措置も諦めて、関係の死を受け入れてゆくことが表現されています。
But Daddy I Love Him
6曲目の「でもパパ 彼を愛してるの」は、自分の恋愛を外野にとやかく言われることを批判した曲。
この曲名は、1989年のディズニー映画『リトル・マーメイド』のアリエルの言葉を引用したもの。
人間の王子エリックに惹かれる人魚姫アリエルと、その娘の行動を絶対に許さない父親トリトン王。
その二人の言い合いの中で、アリエルが発した言葉が“But Daddy Love Him”です。
トリトン王のように、テイラーの交際相手に対して、SNS上で「この相手は不釣り合いだ」「テイラーから離れろ」といったお節介な過剰反応が散見されますが、本人からすれば余計なお世話なのです。
彼女が選んだ恋人や人生の選択を尊重できない人に対しての、痛烈な一曲です。
Fresh Out the Slammer
7曲目「Fresh Out the Slammer」の意味は、「刑務所から出たばかり/刑期を終えたばかり」です。
この曲は、長い交際期間を刑期にたとえて、新たな恋に移っていくことを歌った曲。
Florida!!! (feat Florence + the Machine)
8曲目「Florida(フロリダ)!!! 」は、「現実逃避するための場所や再出発するための場所」という意味で使われています。
この曲は、塞ぎ込む自分を救い出すための曲。
自分の犯した罪や不正も、憑いている幽霊も、失恋の苦悩も、ハリケーンのようにぐちゃぐちゃにして、全てを忘れさせてくれる場所・フロリダ。
心のモヤモヤを吹き飛ばして、再出発させてくれるような一曲です。
Guilty as Sin?
9曲目「Guilty as Sin?」の意味は、“罪深き罪?”です。
この曲は、誰かと付き合っているときに妄想で他の人と浮気することを歌った曲です。
あくまで妄想であってアクションに移していないので、タイトルに“?”マークが付いています。
宗教的なワードを散りばめることで、自身の道徳規範と戦っている様子が描かれた曲です。
Who’s Afraid of Little Old Me?
10曲目「Who’s Afraid of Little Old Me?」の意味は、「こんな私を誰が恐れるの?」です。
“little old”は、自分を卑下するときに使うことば。
この曲は、自分を批判したり攻撃したりしてくる人たちに向けて歌った曲です。
有名になればなるほど、四方八方から飛んでくる攻撃。
しかし、傷つき悩み、性格を捻じ曲げられながらも、ボロボロになりながらも、批判や攻撃に屈しないのがテイラーです。
私を弱らせようとしてくる人こそ私を恐れるべきだと一蹴した曲です。
I Can Fix Him (No Really I Can)
11曲目「I Can Fix Him (No Really I Can)」を直訳すると、「私なら彼を直せる(本当に)」です。
この曲は、問題児の恋人を手懐けようとしたことを歌った曲。
悪い男に対する経験値と対処法を持ち合わせた語り手は、周囲から心配されるような相手を“調教”しようとします。
しかし、曲の最後に“自分にはどうもできそうにない”と諦めているところから、この相手が手に負えない問題児だったことが窺える一曲です。
loml
12曲目「loml」は、“love of my life”の略語で、「最愛の人/生涯の恋人」という意味。
しかし、曲の最後にloveがlossに変わり、“loss of my life”「生涯の喪失」という意味の略語へ変わります。
この曲は、最愛の人との別れを歌った曲です。
永遠に続くと思っていた。
伝説級だった。
「最愛の人だ」と甘い言葉をささやかれ続けた。
それなのに、それが永遠でなかった、本物ではなかった、とわかったときの喪失感は、計り知れないでしょう。
関係の再燃から喪失に至るまでのストーリーが伝わってくる一曲です。
I Can Do It With a Broken Heart
13曲目「I Can Do It With a Broken Heart」の意味は、「傷心でも私ならそれができる」です。
これは、失恋中でもステージに立ち続けることを歌った曲。
プライベートで失恋してどんなに苦しくても、ファンの前ではその気持ちを押し殺して、テイラーは明るく気丈に振舞い、『The Eras Tour』のステージに立ち続けています。
しかも、ライヴで歌う曲の中には、付き合っていた頃のロマンチックな曲や楽しい曲などが、存分に含まれています。
それでも、彼女はファンの歓声と要望に応え続ける、彼女のプロ精神が伝わる一曲です。
The Smallest Man Who Ever Lived
14曲目「The Smallest Man Who Ever Lived」を訳すと、「史上最も小さな男」です。
タイトル通り、この曲は器の小さな元恋人のことを歌った曲。
周囲に語り手を見せびらかしたり、レンタカーで突っ込んでパーティーを台無しにしたり、終始、語り手を苛立たせます。
恋人だったはずなのに、まるで誰かの策略で送り込まれた人物かのような、卑小な相手とのロマンスを歌っています。
The Alchemy
15曲目「The Alchemy」の意味は、「錬金術」です。
錬金術とは、化学技術を使って卑金属を黄金に変えようとする試みのことです。
この曲は、新たな恋へ進み出したことと、自分を取り戻しつつあることを歌った曲。
錬金術のように、相手との間に化学反応が起きて、語り手は錬金術さながらゴールドのような輝きを取り戻していきます。
アメフトを彷彿とさせるワードが盛り込まれているのも、この曲の特徴です。
Clara Bow
16曲目の「Clara Bow」は、1920年代に活躍したアメリカの女優「クララ・ボウ」のこと。
この曲は、女性の名声について歌われた曲。
歌詞に登場するClara Bowも、Stevie Nicksも、憧れや崇拝の的となるような業界を代表する人物です。
そして、いまやテイラー・スウィフトも、その一人。
3人それぞれに、栄光を掴み、羨望の眼差しを向けられ、名声を得た人物です。
しかし、手間暇かけて育て美しく咲いたバラも、いつかは摘み取られてしまうもの。
成功の陰で、その輝きを維持し続けることの難しさを孕んだ曲になっています。
【さいごに】
私たちは、悲しみを乗り越えなくてはなりません。
それが、生きるということです。
誰かを失うのはつらい。
それが大切な人であるなら、なおさらです。
それでも、ひとつずつ心を整理していこう。
心に必要な段階を踏んでいこう。
寂しさも、つらさも、どうしようもない怒りも抑うつも、言葉を紡いで、昇華していこう。
そうすれば、きっと悲しみは乗り越えられる。
そして、実際に乗り越えた人物が、テイラー・スウィフト。
その証が、このアルバムです。
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