人は何のために働くのでしょうか?
お金のため?生活のため?社会貢献のため?生きがいのため?
大人になり社会人として働いてはいるものの、「自分はこのままでいいのだろうか」と悩んでいる方へ。
もしかしたらあなたは自分を見失っているのかもしれません。
そんなときにオススメの映画が『千と千尋の神隠し』です。
映画で、主人公の千尋は湯屋で働き始めると、自分の本当の名前を忘れかけます。
あなたは仕事に疲れ、苦しみ、悩み、忙しさに忙殺され、自分の名前を忘れかけていませんか?
名前を忘れるということは、自分を見失うということと同じような意味を持っていると私は思います。
お金のため、生活のため、生きていくため、名誉のため。
それらはもちろん大事ですが、ただ目先のことに振り回され欲に溺れると、行き着く先は自分の名前すら忘れた労働者。
映画で砂金に群がる湯屋の従業員はカオナシに飲み込まれ、湯婆婆はカオナシの吐しゃ物で生き埋めにされます。
そして砂金は、土くれへと戻ります。
本当に大事なもの、大切にしないといけないものを見失いかけたら、この映画をオススメします。
さて、そんな名作『千と千尋の神隠し』に出てくる名言「よきかな」などの英語翻訳はどうなっているのかについて考察した記事を前回書きました。
本記事はその第二弾です。
まだ、第一弾の記事をご覧になっていない方は、ぜひそちらを読んでからこちらの記事に戻っていただけると、より理解が深まるかと思います。
リン「あんた、釜爺にお礼言ったの?世話になったんだろ?」
吹き替え:Thank the boiler man, you idiot. You know he’s really sticking his neck out for you
『千と千尋の神隠し(Spirited Away)』
拙訳:釜爺にお礼言いなよ、とんま。あんたのためにリスクを冒してくれてるんだよ?
オリジナルの「世話になった」というセリフが、「リスクを冒している」という表現になっていることが特徴的な吹き替えです。
日本語の「世話になる」は、日本語ならではの独特の表現であるため、今回のように違う表現に置き換えつつ、オリジナルと同じような印象を与える必要があります。
では、オリジナルのセリフが与える印象とは何でしょうか?
ここでの「世話になった」とは、「千尋が湯屋で働けるように力添えをしてくれた」ということです。
これは私の個人的な所感ですが、「リスクを冒している」だと「世話になる」より言葉としての重みが強いと感じます。
たしかに千尋を助けていることが湯婆婆にバレたらひどい目に遭うでしょうし、危険を冒していることは間違いありません。
しかし、吹き替え表現だと、いくら姉御肌のリンであっても、言い方としてきつく感じ、千尋を責めているようにも捉えられます。
では、字幕の英語はどうでしょうか?
字幕:Aren’t you going to thank Kamaji? He’s looking out for you.
『千と千尋の神隠し(Spirited Away)』
拙訳:あんた、釜爺にお礼言ったの?味方してくれてんだよ?
字幕は、オリジナルのセリフをほぼ踏襲した表現が使われています。
このセリフの一番のポイントである「世話になる」が、「味方する」で表現されている点もオリジナルとの近さを感じます。
釜爺「エンガチョ 千!エンガチョ!切った!」
英語の考察に入る前に、まずは「エンガチョ」の意味を確認しておきたいと思います。
文字面から「悪い縁をチョン切る」という意味ではないかと想像しますが、さてどうでしょう。
国語辞典には次のように記載されています。
東京地方で、不浄なものに触れた人を、子供がはやしたてる言葉。語源は不詳。「縁がちょんと切れる」ことからとも「因果な性」の音変化ともいう。
goo国語辞典
辞書の定義から、自分に付いてしまった穢れを断ち切る仕草のことだとわかります。
日本語の意味を理解したうえで、英語の字幕と吹き替えを確認してみます。
音声:You killed it? Those things are bad luck. Hurry, before it rubs off on you! Put your thumbs and forefingers together. Evil, be gone!
『千と千尋の神隠し(Spirited Away)』
拙訳:殺しただと?そいつは災いだ。急げ、お前に移る前に!親指と人差し指同士をつなげて。立ち去れ。
吹き替えでは、オリジナルのセリフの尺をかなりオーバーして、釜爺が長々と「えんがちょ」の仕草について説明しています。
英語圏で「えんがちょ」に値するような同様の仕草があれば、その名称を使用することがありますが、今回このような処理がなされているということは、英語圏にはそのような文化がないのだと推察します。
釜爺が説明してくれるおかげで、「えんがちょ」を知らない英語圏の人にも、不吉なものを断ち切る動作だと理解できるようになっていますね。
それでは、字数制限の厳しい英語字幕はどのような処理がなされているでしょう?
字幕:Sen, we have to purge the spell. Begone!
『千と千尋の神隠し(Spirited Away)』
拙訳:千、呪いを解かにゃならん。立ち去れ!
字幕の方は、字数制限により吹き替えほどの情報量が入っていませんが、これはこれでシンプルでスッキリとした英語です。
むしろ字幕の情報量だけでも、千尋と釜爺のやり取りの意味を理解できます。
湯婆婆「それでお前はどうなるんだい そのあと私に八つ裂きにされてもいいんかい!」
音声:Fine, but on one condition. I get to give Sen one final test. If she fails, she’s mine!
『千と千尋の神隠し(Spirited Away)』
拙訳:わかった、ただし一つ条件がある。千には最後に一つテストを出す。もし間違えたら、千は私のものだ。
字幕:And what about you? Maybe I’ll send them back and then tear you to pieces.
『千と千尋の神隠し(Spirited Away)』
拙訳:それでお前はどうなるんだい?3人を送り返したら、お前を八つ裂きにするかもしれないよ。
このセリフを取り上げた理由は、上記を見比べていただけるとわかる通り、吹き替え音声はオリジナルのセリフと大きく異なっていたからです。
字幕は、ほぼそのままオリジナルのセリフが翻訳されていて、「ハクは千尋が元の世界に戻った後、湯婆婆からどんな処罰を受けるのか?」と観ている側が不安になるような含みを持たせたセリフです。
一方の吹き替えは、ラストの両親当てテストをチラつかせ、しかも千尋がもし間違えたらどうなるかまで、説明されています。
オリジナルと字幕が「ハク」に焦点を当てているのに対し、吹き替えではハクのことを一切触れず「千尋」に焦点が当てられています。
こうも違えば、日本語オリジナル/字幕を観ている人と、吹き替えしか観ていない英語圏の人とでは、シーンによって受け取っているイメージが大きく異なりそうです。
さいごに
2回にわたって『千と千尋の神隠し』の英語字幕と吹き替えを考察してみて分かったことがあります。
それは、字幕はおおむねオリジナルのセリフに忠実で、吹き替えは英語圏の人がすんなり理解できるように要所要所に説明を加えているということです。
吹き替えはとくにオリジナルで喋っていないところでも、セリフが加えられているシーンがあって驚きました。
気になる方は、ぜひDVDでチェックしてみてください。
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