2025年10月3日、テイラー・スウィフト(Taylor Swift)の12枚目のアルバム『ザ・ライフ・オブ・ア・ショーガール(The Life Of A Showgirl)』がリリースされました。
この記事では、全12曲が一体どんな曲なのか、その概要や必要な予備知識を簡潔に解説します。

- 全曲解説
- The Fate of Ophelia(ザ・フェイト・オブ・オフィーリア)
- Elizabeth Taylor(エリザベス・テイラー)
- Opalite(オパライト)
- Father Figure(ファーザー・フィギュア)
- Eldest Daughter(エルデスト・ドーター)
- Ruin the Friendship(ルーイン・ザ・フレンドシップ)
- Actually Romantic(アクチュアリー・ロマンティック)
- Wi$h Li$t(ウィッシュ・リスト)
- Wood(ウッド)
- CANCELLED!(キャンセルド!)
- Honey(ハニー)
- The Life of a Showgirl(Feat. Sabrina Carpenter)(ザ・ライフ・オブ・ア・ショウガール(feat. サブリナ・カーペンター))
- さいごに
全曲解説
テイラーのラッキーナンバーは13。
13曲目が出てきそうですが、ひとまず現時点の全12曲はどんな曲なのか、どんな予備知識が必要なのか解説していきます。
※解説は、テイラーのプライベートに触れるゴシップネタ等はあえて含んでおりません。バイアスがかからないよう細心の注意を払っていますが、歌詞を読み込んだうえでの個人の考察・解釈が含まれる場合があります。
The Fate of Ophelia(ザ・フェイト・オブ・オフィーリア)
1曲目を飾る「The Fate of Ophelia」は和訳すると「オフィーリアの運命」です。
この曲は、ハムレットに登場するオフィーリアのような悲劇をたどる前に救世主が現れたことを歌った曲。
前作AL『THE TORTURED POETS DEPARTMENT(2024年)』に収録の「The Prophecy(予言)」で“お金はいらないから誰か一緒にいてくれる人が欲しい”と神に懇願していました。
この曲は、その悲痛な願いが叶った曲といえるかもしれません。
オフィーリアとは、シェイクスピアの戯曲『ハムレット』に登場する女性キャラクターで、主人公ハムレット王子の恋人です。
オフィーリアの運命:その1.
オフィーリアはハムレットを愛していましたが、父からも兄からもハムレットを避けるように注意を受ける。
⇒自分の意思よりも男性・家族・権威に従わなくてはいけない運命
オフィーリアの運命:その2.
恋人ハムレットは父王が毒殺されたことを知り、復讐を果たすべく狂気を装うようになる。オフィーリアはハムレットの変貌ぶりにひどく傷心する。
⇒愛する人に拒絶される運命
オフィーリアの運命:その3.
ハムレットの手によってオフィーリアの父が誤って殺害されたことを知りオフィーリアは錯乱状態に陥り、川に落ちて溺死しまう。
⇒愛する人の手によって父が殺される運命
画家ミレーによる絵画『オフィーリア』は、川に沈んでしまう直前の儚く美しい瞬間が描かれています。
そして、このアルバムジャケットのテイラーは、まさにそのオフィーリアを思わせます。
Elizabeth Taylor(エリザベス・テイラー)
結婚=永遠の愛ではないことは、エリザベス・テイラーが証明しています。
なぜなら彼女は生涯で8回結婚しているからです。
2曲目の「Elizabeth Taylor」は、自身とエリザベス・テイラーを重ねた曲。
同じ恋多き女性だからこそ、そして業界トップクラスの名声を得ているからこそ、恋愛を継続することの苦悩や、永遠の愛を信じたいけれど確証が持てずいる心境が歌詞に表れています。
エリザベス・テイラーとは、20世紀を代表するイギリス出身の俳優です。
『陽のあたる場所(1951年)』や『ジャイアンツ(1956年)』『バターフィールド8(1960年)』に出演し、私生活では8度の結婚を経験したことで知られています。
テイラーの曲でエリザベス・テイラーに触れられているのは、この曲が初めてはありません。
6枚目のAL『reputation(2017年)』に収録の「…Ready for It?」のヴァース2でこう歌っています。
“そして彼は私の看守になれる/このテイラーにとってのバートンに”
バートンというのは、イギリス人俳優のリチャード・バートンのことです。
お互いに既婚者であったのに関わらず、『クレオパトラ(1963年)』の撮影で恋に落ち、不倫関係になります。
それぞれに離婚した後、1964年にテイラーとバートンは結婚し、1974年に離婚。
そして1975に再婚するも、一年も経たずにまた離婚。
しかし、テイラーにとってリチャード・バートンは生涯で最も深く愛した相手と言われています。
“私の看守になれる”と歌っているのは、エリザベス・テイラーとバートンが当初不倫関係にあったことと、テイラーが当時恋人がいたのに他の男性と恋に落ちたことを重ねているものと思われます。
新たな相手を「看守」に喩えたテイラーは、そ約6年後11枚目のAL『THE TORTURED POETS DEPARTMENT(2024年)』に収録の「Fresh Out The Slammer(意味:刑務所から出たばかり)」で、その相手との長い交際期間の終わりを「刑期」に喩えています。
Opalite(オパライト)
3曲目のタイトル「オパライト」とは、オパールを模して造られた人工的な合成ガラスのことです。
この曲は、過去の恋愛に執着している状態から、新しい相手を見つけ心の空が晴れていく様子を、光の屈折で虹色に見えるオパライトに喩えて歌った曲です。
人工的に作られたオパライトのように、自分の輝きや幸せを偶然の産物としてではなく、自分で作っていくことを表しています。
Father Figure(ファーザー・フィギュア)
4曲目「Father Figure」の意味は、「父親代わりの人」です。
父親的存在の人(おそらくレーベルや自分より立場が上だった相手?)が権力で幅を利かせて、若く才能ある語り手を育て上げていたけれど、信頼関係が崩れ、立場が逆転していくことを歌った曲です。
テイラーは、過去に自身の曲の権利を奪われ、全曲を取り戻すのに何年もかかりました。
そういった音楽業界の闇や、ショーガールたちを仕切るボス的存在とショーガールとのパワーバランスがストーリー仕立てで表現されています。
Eldest Daughter(エルデスト・ドーター)
テイラーにはオースティンという弟がいます。
5曲目の「長女」を意味する「Eldest Daughter」は、長女としての責任・忠誠心・強がった態度をテーマにしたラブソングです。
最初の出会いに対して、長女は最初に傷つく存在だから、オオカミの皮を被ってクールぶらなきゃいけなかったと懺悔しつつも、「誓いは絶対破らない」という忠誠心でもって、相手との関係を守ろうとしている様子が描かれています。
Ruin the Friendship(ルーイン・ザ・フレンドシップ)
6曲目の「Ruin the Friendship」は「友情を台無しにする」という意味で、高校時代の頃を回想し、後悔と学びを歌った曲です。
高校時代に好意を抱いていた友人と恋愛に発展することなく卒業し、やがて彼の死を知らされます。
「友情を台無しにしてでもあの時キスしとけばよかった」と回想しつつ、どんな時も後悔のないよう行動すべきという教訓的なメッセージも込められています。
Actually Romantic(アクチュアリー・ロマンティック)
7曲目「実はロマンチック」を意味する「Actually Romantic」は、文字どおりの意味ではなくて皮肉の詰まった曲です。
陰で執拗に自分のことを批判してくる相手のことを逆の発想で、そんなに私のことを考えてくれるなんて実はロマンチックと歌で返しています。
他人からの悪口や批判を愛情の裏返しとして受け止める、皮肉と余裕と器の広さが感じられます。
Wi$h Li$t(ウィッシュ・リスト)
8曲目の「ウィッシュ・リスト」は曲名どおり、人々が抱く願望リストについて歌われた曲です。
ヨットライフを欲しがったり、レアルマドリードとの契約を欲しがったり、パルムドールを欲しがったり。
多くの人が富や名声を欲しがるのに対して、語り手の「あなたが欲しい」というシンプルな願いが対照的です。
Wood(ウッド)
9曲目の「Wood」は、イディオムの「knock on wood」から来ています。
「knock on wood」とは、「幸運がいつまでも続きますように」「災難に遭いませんように」という願掛けの意味を込めて木や木製品を叩く行為のことを指します。
この曲には、「黒猫を見かける」や「デイジーの花を使って好き・嫌い・好き…と花占いする」など、迷信を思わせる歌詞が含まれています。
そういった迷信や縁起担ぎを信じるタイプの自分を振り返り、現在の相手はそういったものは必要ないことを歌っています。
CANCELLED!(キャンセルド!)
10曲目の「CANCELLED!」はキャンセルカルチャー(個人や企業を批判・不買運動などをして社会的に排除しようとする動き)について歌われた曲。
今でこそ世界中にファンがいて愛されているテイラーですが、過去にSNSやメディアで集中批判された経験があります。
キャンセルされた経験があるからこそ、同じく社会的批判を受けて傷を負っている人に対して理解や仲間意識を示しています。
Honey(ハニー)
11曲目の「Honey」は、同じ言葉でも使う人によって印象が大きく変わることを歌った曲。
呼びかけで使われる「ハニー」や「スイートハート」は、使い方次第で嫌味や攻撃性を帯びることもあります。
しかし、本来の「ハニー」の意味は、親しい人への愛情を込めた呼びかけ。
本来の意味で使ってくれる相手が現れたことで、この言葉の意味が変わったことを表現しています。
The Life of a Showgirl(Feat. Sabrina Carpenter)(ザ・ライフ・オブ・ア・ショウガール(feat. サブリナ・カーペンター))
アルバム名にもなっているこの曲は、ショーガールの裏側に焦点を当てた曲です。
架空のショーガール「キティ」の物語を通じて、彼女の生活が決してきらびやかで楽しいものではなく、孤独や痛み、成功の代償と常に向き合わなければならない過酷なものであることが描かれています。
ショーガールとして生きるには強い覚悟が求められ、その道は決して生易しいものではありません。
この曲を、2年近くにわたり「ジ・エラズ・ツアー」で世界を巡ったテイラーと、何度もオープニングアクトを務めたサブリナが歌うことで、観客が知ることのない舞台裏の痛みや厳しさが、よりリアルに浮かび上がります。
さいごに
スパンコールの衣装をまとい、高いヒールを履き、絶対に笑顔は絶やさない。
このアルバムを聴くまでは、タイトルのイメージから、ショーガールとしての煌びやかで華やかで誰もが憧れたくなるような人生を歌っているのかと思っていました。
真逆です。
ショーガールとして普通の恋愛をキープし続けることの難しさ。
ショーガールとして名声をコントールすることの大変さ。
ちょっとしたことで、バッシングの的のなってしまう脆さ。
ショーガールという存在ではどうすることもできない業界の闇。
ショーガールとして生きることの厳しさ。
犠牲と代償。
このアルバムは、舞台のスポットライトが当たっていない時のショーガールの人生が詰まった作品です。

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