女は上書き保存、男は名前を付けて保存。
恋愛の捉え方についてよく言われる話です。
しかし、少なくともラナ・デル・レイ(Lana Del Rey)は、例外。
名前を付けて保存している相手がいるようです。
そう思わせる曲が、今回ご紹介する2012年リリースの「Blue Jeans」です。
この記事では、曲名の意味、各パートの要約、使われたサンプリング解説、MVの考察をご紹介します。
【曲名の意味】
この曲の歌詞に、50年代に活躍したアメリカの俳優ジェームズ・ディーンが登場します。
彼は“不良”の代名詞として知られている俳優ですが、それには理由があります。
1955年の映画『理由なき反抗』で暴走する若者を演じた彼は、世間に強烈な印象を残し、若者たちの心を掴みました。
そのときに履いていたのが、ブルージーンズです。
ジェームズ・ディーンをはじめとする映画の影響により、社会に対して反抗的な若者たちは、こぞってジーンズを履くようになったそうです。
以降、ジェームズ・ディーンもジーンズも、“不良”の象徴として知られるようになりました。
この曲に登場する“You”は、ジェームズ・ディーン並みのハンサムかつバッドガイです。
その人物とジェームズ・ディーンを重ね合わせて、「Blue Jeans」と名付けたのだと思われます。
【各パートの要約】
<ヴァース1>
ある12月。語り手は、ジェームズ・ディーンを彷彿とされるワルでハンサムな相手に一目惚れする。音楽で表すなら、相手はパンクロックで、語り手はヒップホップ。育った環境も、性格も真逆。だからこそ、残酷にも惹かれてしまう恋の様子が表現されている。
<コーラス>
語り手の一途な愛が語られるパート。生涯にわたって忘れることなく愛し続け、健気に待っている様子が感じ取れるが、“覚えてるって言ってほしい”と相手に懇願するパートからは、相手はすでに語り手の元から去っていることが、仄めかされている。
<ヴァース2>
相手が去った理由が具体的に表現されたパート。ギャングスター志望の相手は、語り手の説得も甲斐なく、金の亡者と化し、家を飛び出してそれきりとなった。
<ブリッジ>
交際中の思い出が語られるパート。昔は一晩中一緒にいたのに、相手が毎晩外出するようになったこと。それでも語り手は、味方であり続けたこと。語り手が欲張ってしまい、予想外の結果を招いてしまったこと。相手が家を出て行った時に、何もかも変わってしまったことなどが詳述されている。
【サンプリング解説】
開始18秒辺りに、男性の高い声で叫んでいる部分(実際は、“Sing!”と言っている)がある。
それは、Rick James(リック・ジェームス)のライヴ音源「Mary Jane (Live in Long Beach, July 1981)」の音声(9:22)をサンプリングしたもの。
「Mary Jane」の曲の内容は、Mary Janeという相手への強い愛情を表現した曲。
ちなみに、Mary Janeは、スラングでマリファナを意味することば。
リック・ジェームスは、女癖が悪く、暴力沙汰を起こした過去や、ドラッグを常用して問題行動を起こした過去があり、折り紙付きのバッドガイです。
そんな不良による不良の曲がサンプリングされていることを知ったうえでこの曲を聴くと、この曲の理解が深まります。
【MV考察】
この曲のMVは、白い水着を着たラナが、ワニと彼が泳いでるプールへと入水し、彼の腕の中で息絶えるというもの。
水面から顔半分だけを出してラナを待つワニのような彼は、まるで捕食者。
白色の水着を着たラナは、ピュアで幼気な感じが伝わってきて、これから捕食者の恰好の餌食となる、被捕食者。
プールは彼のいる不純だらけの世界を表していると思われる。
不純のないラナは進んでこの恋愛の生け贄になることを選びプールに入水し、蝕まれていく自分に恍惚感すら感じているところが、このMVの魅力ではないかと思う。
さいごに
“Dream as if you’ll live forever. Live as if you’ll die today.”
James Dean
“永遠に生きるつもりで夢を抱け。今日死ぬつもりで生きろ。”は、ジェームズ・ディーンの有名な名言。
この曲のお相手も、ジェームズ・ディーンよろしく、ヴァース2で大きな夢を抱いたわけですが、その結果、二人の恋愛に亀裂が生じてしまったことが皮肉とも悲哀とも受け取れます。
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