目に見えるものが、全てではない。
目に見えないものを見るには、どうすればいいか。
2016年に出会った本に、見えないものを見るためのヒントがありました。
映画の中にも、文学の中にも、俳句や詩の中にも、音楽(歌詞)の中にも、そしてもちろん日常生活の中にも、行間が存在します。
しかし、行間が実際には何を表しているかその真意を理解できないと、日常生活でもドラマや映画などのエンタメを楽しむ際にも、苦労することになるでしょう。
そもそも、なぜいい映画やいい音楽の中には、こぞってサブテキスト(言外の意味)や行間が含まれているのでしょう。
それは、それらが物語に深みを与えてくれるからです。
この言葉には本当はこんな意味が含まれているのではないか?
このジェスチャーには、こういう意味があるんじゃないか?
エンタメを楽しむ側に、たっぷりと考える余白を与えてくれるのです。
文字どおりの意味しか持たないセリフや歌詞だと、内容が薄っぺらいものになってしまうのがいい例です。
サブテキストおよび行間は、まさしく物語をよりよいものにするための大事なエッセンス。
そのエッセンスを理解するために、ちょっとした知識と着眼点を教えてくれる指南書が、今回ご紹介する書籍『サブテキストで書く脚本術 (映画の行間には何が潜んでいるのか) 』です。
この記事では、この本を読んでもらいたい人や、読んで手に入れたスキル、そして得たスキルを活かした実践編をご紹介します。
【対象者】こんな人にオススメ
- 脚本家または脚本家志望の人
- 映画や音楽など、考察したい人
- 考える力を養いたい人
- 映画をよく鑑賞する人
総括すると、映画を観る人であれば、ぜひ読んでいただきたい一冊です。
趣味として映画を愉しむ人から、仕事で映画を扱う人(映画ライター、映像翻訳家、脚本家など)まで、映画を観る人であれば、今後映画を観るうえで役に立つ一冊です。
逆に、この本をあまりオススメできない人はどんな人かについても、以下にまとめました。
- 古い映画をまったく観ない人
≪理由≫ サブテキストを紹介するうえで、古い映画のシーンを多数引用しています。もちろん、観ていない人にも理解できるような説明がされていますが、映画を観ている人と観ていない人では理解度が違ってくると思われるため。古い映画の代表例として、『サイコ(1960年)』を挙げておきます。
【感想】読んだあとに起きた変化
この本を読んでから、あらゆることを注意深く観察するようになり、いままで見落としていたであろう部分、つまり言葉や身振り手振りの裏に隠された意味を考察するようになりました。
この本は、「サブテキストの定義」からはじまり、「言葉によるサブテキスト」「身振り・行動によるサブテキスト」「イメージ・メタファーによるサブテキスト」「ジャンルによるサブテキスト」とさまざまなタイプのサブテキストが紹介されています。
ちょっとした言動に焦点を当てたミクロ視点と、季節や天候やジャンルといった大枠に焦点を当てたマクロ視点。
その両視点のサブテキストを、映画のワンシーンや、作者の実体験、誰もが想像しやすい日常のワンシーンを例に挙げることで、とっつきにくく見えるサブテキストを理解しやすいものにしています。
とくに興味深かったのは、「ジャンルによるサブテキスト」の章です。
中でも、ホラー映画についての記述です。
ホラー映画とは、単に人を怖がらせるために映画ではなく、その裏に込められた意味や役割がきちんとあることを知りました。
詳しい内容は著作権の関係でお伝えできませんが、私はこの本で映画の見方が変わりました。
【展開】『魔女の宅急便』のサブテキストを考察
この本で学んだことを、実際に自分の好きな映画で展開してみたいと思います。
あなたの一番好きな映画を思い描いてください。
その映画の始まりは、どんなシーンから始まりますか?
季節はいつですか?
私の一番好きな映画は、ジブリ作品の『魔女の宅急便』です。
(ご覧になったことがある方は、いま、冒頭シーンを思い返してみてください。)
冒頭は、力強い風が草花を揺らし、キキがラジオを聴きながら草原に寝そべっているシーンから始まります。
季節は、草花が生い茂っている点と、キキが淡い色の半そでワンピースを着ている点から、春か夏、もしくはその間ではないかと見当がつきます。
では、詳しくサブテキストを読み取ってみます。
力強い風は、旅立ちを1カ月延ばしたキキの背中を押そうとしている表れのように見えます。
また、キキはラジオで今後の天気予報が晴れであることを確認して旅立ちを決心しますが、出発後に天気は急変してしまい、嵐に遭遇します。
冒頭シーンはかなり強い風が吹いているので、出発後に起きる天気の急変の予兆も表しているのではないかと推察できます。
話を季節に移しましょう。
季節は春なのか夏なのか断定できませんが、個人的には夏に入るギリギリの春ではないかと思います。
冒頭シーンに出てくるキキの母に薬をもらいに来たおばあちゃんが長袖でマフラーをしているので、少なくとも冒頭時点では肌寒さの残る季節ではないかと考えています。
春といえば「旅立ち」や「新生活」を想起させる季節。
今後の展開を想起させる季節が冒頭シーンに選ばれています。
これまで何十回とこの映画を観てきましたが、最初の冒頭シーンにこれほど考えを巡らせたことはありません。
これまでの映画鑑賞は、物語の展開を追うだけのものでした。
しかしこの本のおかげで、映画のフレーム内に映るあらゆるものを注意深く観察するようになりました。
あなたの一番好きな映画には、どんなサブテキストが潜んでいましたか?
さいごに
じつはこの本、8年前(2016年)に発売された本で、現在、Amazonでも出版社のフィルムアート社でも、新品は品切れ状態となっています。
現存するのは、Amazonでの中古品のみ。
そんな手に入りにくいものを紹介するのは心苦しいのですが、なぜいまになって紹介するかというと、この本が「何度も読み返したくなる良書だ」と定期的に読み返した末に気づいたからです。
この本を読み終わった直後は、いろんなサブテキストに敏感になって映画をよりよく愉しめるのですが、人間はどうしても忘れていく生き物です。
サブテキストへの意識が鈍くなってきたと思えば、その都度この本を開いて、敏感な感覚を取り戻す作業を繰り返しています。
包丁と一緒です。
切れ味が落ちてきたら、研がなくてはならない。
私にとってこの本は、鋭い感覚を持続させてくれる本なんです。
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